8-233 懲りないね
良那の子は皆、コンナか。違うな。
向山が近くて、浜木綿の川からも近い。下れば海だ。ずっと昔から続く、女と子に優しい国。だから大国になった。
その良那に、何だってコンナのが。いやドコにでも生まれるさ、悪いヤツってのは。・・・・・・親も気の毒に。
「おかえり、カツ。」
「ただいま。ユユは?」
「寝た。ほら、グッスリ。」
しっかり躾けて、優しく強い子に育てなきゃな。ユユが誇れるような親に、皆が幸せに暮らせる村にしよう。
生まれた村は滅んだけど、早稲は残るだろう。だから変える、変われるさ。
「良那の子、ヨシだっけ。森の中で慣らせようよ。」
「そうだな。ナミを谷西に送り届けるまでは、そうしよう。」
ナミは男を怖がる。少しづつ良くなっているが、ヨシを見れば怯えるだろう。
体は小さいが、アレは手負いの獣。泣いて嫌がる弟を、引き摺りながら橇に乗せるような子だ。
薄い氷みたいなナミの心を、笑いながらガンガン踏みつける。他の子だって同じように、壊れるまで傷つけるだろう。
早稲に飛び込んだ人たちは皆、死ぬ気で逃げて来た。やっと落ち着いたのに思い出させる。
死に別れってのは辛いモンさ。生き別れなら、いつか会える。それを糧にして生きられる。けど、看取ったら?
心にポッカリ開いた穴を、どうやって埋めるんだい。
ナミは母を看取った。今でもコッソリ、墓に参る。一人でさ。
大人しい犬を付けてるから、守るだろう。けどアレに睨まれたら、どうなる。考えるダケで恐ろしい。
「岸多の人だっけ、先見の力で見たの。」
「あぁ。社の司がな。」
「シギ。隠してるのかな、力。」
「さぁな。見えるし話せるんだから、良いじゃないか。社の司は人の長。腰抜けでも、居なきゃ困る。」
「まぁ、そうだけど。」
「集水神。早稲に引き取られた、良那の悪たれ者。森の中にある獄に入れられました。」
「そうか。で、何をした。」
「驚かせるダケでは足りないので、恐れ脅かし、怖がらせました。」
使わしめ爽、とってもイイ笑顔。
爽は夜明けの光を浴びて、消えた夜露から生まれた妖怪。光と闇、どちらにも耐性がある。つまり、幻影を見せる事に秀でている。
「弟は。」
「アコが心に宿った闇を光に変え、救いました。」
「蛇谷の祝、煇の子か。」
「はい。アコなら社の司、人の長として皆を導き、耶万を良くするでしょう。」
蛇谷の祝には、蛇の隠が憑く。闇に溺れる事なく、人として生きるだろう。気掛かりは、子を残すかどうか。
耶万神の使わしめマノも、蛇の隠だったな。照は白、マノは黒。見守ろうじゃないか。
「ところで爽、西はどうなった。」
「はい。鎮の西国、中の西国、真中の七国。全て清められましたが、数多の神が御隠れに。」
「そうか。で、大国主神は。」
「妻問いを望むも止められ、大社に御籠り遊ばしたとか。」
・・・・・・。