8-231 笑ってよ
岸多の社の司は見た。鎮の西国と真中の七国から押し寄せた兵に、良那のヨシが唆されるのを。
それダケなら良い。有ろう事か良那に引き込み、滅ぼす。
村も国も、守りが強く固い。けれど蛇谷と同じように、内から仕掛けられれば? 一溜りも無い。内から外から攻めても落ちないのは、早稲くらいだろう。
永良部から聞かされたアコは、ブワッと闇を深めた。母の国、蛇谷が滅んだのと同じ遣り口で、良くしてくれた良那が滅ぶ? 許さない。
認めたくない。でもオレは耶万の、死んだ大王の倅。
母さんの国、蛇谷は滅ぼされ朽ち果てた。戻れないんだ。だから良那をと考えていたのに、困るんだよ。だから潰す。子だから何だ、甘えるな。
今は良那から岸多までしか、闇を飛ばせない。もっと強めて、早稲まで届くようにしなければ。耶万から大貝山までが、それくらいだから。
一山の隠神は仰った。『人の世の事は、人の世で』と。
戻ったらオレは社の司、人の長だ。腐った耶万を叩き直す。照の姿が見えたんだ、もう怖くない。鳶神の御許しも得られたし、闇の力で変えてやる。
耶万の生き残りは、オレを受け入れないだろう。けど負けない。負けて堪るか!
「アコ、アコ。シッカリするんだ、アコ。」
「あれ?」
「戻ったか。」
「照。オレ、闇に溺れてたのかな。」
「いいや、泳いていた。怖いくらいスイスイと。」
知らなかった。軽くなら良いけど、潜り過ぎると妖怪になるのか。隠の世で暮らすのも。いや、良くない。オレが戻らなきゃ、誰が腐った耶万を導くんだ。
春になれば間違いなく、西から兵が送られてくる。鎮の西国、中の西国、真中の七国。なぜか耶万に繰り返し、仕掛けてくるんだよな。
諦めろよ、煩わしい。
「アコ。少しくらい子らしく、雪遊びでも。」
「雪に良い思い出、無いんだ。」
耶万の継ぐ子は皆、攫われた祝の子。祝女か祝人が、耶万の誰か。まぁ初めは大王だから、兄弟姉妹が多いんだよね。
親が誰でも、祝の力が無ければ生きられない。オレが生き残ったのは、照が守ってくれたから。
知らなかったよ、ありがとう。
「社に預けられた子、冬に死ぬ事が多いんだ。だから雪を見ると、心がズゥンと重くなる。」
墓を作ろうにも、積もった雪を退かさなきゃ。重いんだ。セッセと退かして退かして、それから凍った土を掘る。
子の力は弱い、三日は掛かる。朝になったら、新しく積もった雪を退かして、それからさ。
骸は雪に埋めて、腐るのを遅らせる。やっと掘った穴に、カチンコチンに凍った骸を埋める。『遅くなって、ごめんね』って謝りながら。
「あんなの、もうウンザリだ。」
「そうだね。」
恐れられても怖がられても、恨まれたって構わない。この力で、母さんから貰った闇の力で、子を泣かせない国に変えるんだ。
使えるモンは何でも使う。オレは大王の倅、歯向かうヤツは闇に沈める。思い知らせてヤル。クックック。
「アコ。顔が悪しいよ。」
「いけないイケナイ戻さなきゃ。どう、戻った?」
「うん。笑ってよ、アコ。煇みたいに。」