8-230 あぁコワ
ハァ。オレまだ子なのに、早稲のために死ぬのか。戦場なんか行きたくない。
母さんも父さんも嫌いだ。何だよ、捨てるコトないだろう。そんなにオレが嫌いか。ちょっと悪さしたダケ、殺してない。なのにさ。
「オイ、聞いてるのかヨシ。」
ヨシの肩を掴んで、ワカが問う。
「・・・・・・ん? オレ子です。許してください。」
コイツ、心が腐ってる。良那では子だと、何をしても許されるのか? コレは叩いても鍛えても、難しいだろうよ。ギリギリまで壊して、追い詰めるしか無い。
腐ったのを捨てて、癒えるのを待つ。そのままなら死ぬ、治ったら叩き直す。それダケさ。
「弟に謝ったのか。」
低い声を出し、カツが問う。
「エッ、何で? オレ悪くない。」
・・・・・・。
親の言い付けを破って、雪に覆われた川へ向かったんだよな。他の子に断られて、諭されても聞き流した。
一人じゃ行っても信じてもらえない。だから証にと、嫌がる弟を連れ出した。そうだよな。
何も持たず、怯える弟を橇に乗せて進んだ。逸れて、集山に突っ込んだ。
凍えて動けなくなった弟を抱きしめたのは、ただ寒かったから。助けようと思ったのでは無い。
少しは悪いと思ったか? 国守に見つけられた時、なぜ『悪くない』と言った。凍え死にそうな弟は繰り返し、震えながら助けを求めたと聞く。なのにナゼ。
オレにも弟が居た。小さくてな、守りたいと思ったよ。死んじまったけどな。良い兄で有ろう、しっかり生きよう。そう思わせてくれた愛し子さ。
オレはオカシイ歪んでいる。それでも親になれたのは、弟が居たから。弟がオレの心を、しっかり支えてくれている。
だから弟を傷つけたり殺そうとするヤツは、どんなに小さくても許せないんだ。
「あのオレ子だから、許してくれますよね。戦場なんかに、放り込みませんよね。」
「子でも生まれがドコでも、男なら戦え。早稲が仕掛けられれば、真っ先に放り込む。逃がさん。」
縋るヨシを睨みつけ、カツが言い切った。
「そんな! 嫌だ。ワカさん、良那に帰りたい。連れて帰ってよ。」
「断る。ではヨシの事、よろしくお願いします。」
良那の臣ワカ、早稲の長に頭を下げる。
「はい、お預かりします。ではシギ、頼みます。」
「はい。ワカさま、こちらへ。」
早稲の社の司シギ、ニッコリ。
エッ、嘘だろう? オレ早稲に売られたのか。オイオイ、何だよ何でだよ。
見送りにも来なかった親、子を助けようとしない国守、民を売る臣。良那って、良い国じゃなかったのか。
クソッ、クソくそクソッ。オレは死なない、生きてやる。生き残って、ギッタンギッタンにしてヤル!
「カツ。コイツ、放り込むか。」
冷たい目をして、早稲の長ヒト。
「それが良い。コイツ、腐ってる。」
見下しながら、早稲の大臣ヌエ。
「頭、冷やしな。」
嘲笑うように、早稲の臣セイ。
こうして見ると、三人とも似てるな。あの長に。オレも歪んでるけど、負けるわ。あぁコワ。
「偉い人たちの仰せだ。暫く入ってろ、来い。」
早稲の狩頭だもん。カツだって、偉い人だよ。