8-229 そんなぁ
早稲から仕掛ける事は無い。戦でも何でも仕掛けられれば迷わず攻める、国より豊かで強い、戦好きな村。それが早稲。
『早稲の他所の』人が戦から戻らず、残された子を連れて若いのが去った。その隙をつき、玉置と三鶴が攻め込む。
ボロボロになった早稲を救ったのが、カツとセイ。
「おや? 迎えかな。」
大貝山の統べる地の端で、男が手を振っている。
「社の司からは、何も聞いていませんが。」
うん、オレも聞いてない。
舟を寄せ、櫂をワカに持たせる。舟を降り、ギリギリまで近づいた。
「良那の国守、オトだ。」
「早稲の狩頭、カツだ。悪たれを迎えに来た。」
「ワン。」 ムカエニキタ。
『春まで待てないホドの悪たれ』でしょう? 社の司から聞いたけど、酷いね。カツさんは早稲の柱だ、オレが守る。アヤシイ動きをしたら、迷わず噛むからな!
「良い犬ですね。名を聞いても?」
「カナだ。」
「ワン。」 ヨロシク。
クンクン、人じゃナイ。カツさんにもオレにも見えるってコトは、姿を見せてるんだ。妖怪の国守に違い無い。
前に早稲神の使わしめ、実さまに会った。チラッとネ。
妖怪ってね、祝の力を持たない生き物には、少しも姿を見せないんだ。オレは狩頭の飼い犬だから、一度だけ会えたんだぞ。エッヘン。
「櫂を持ってるのは臣、親かな。」
「良那の臣です、名をワカ。」
「二人はココで預かる。オトは、どうするんだい。」
「良那に戻ります。」
「そうか。舟はドウどうする。」
「ワカが。臣ですが鍛えていて、力も強い。早稲からココまで、スイスイ漕げるでしょう。」
「解った。」
オトは舟まで戻り、ワカに伝える。ヨシは分かりやすく怯え、舟底に突っ伏した。
「ココまで迎えに来るから、ワカ。帰りは社を通して、知らせてくれ。」
「そうするよ、ありがとう。」
「舟寄せが見えた。ソロソロだ、起き上がれ。」
縛られたまま、恨めしそうな目で見つめるヨシに、ワカが声を掛けた。
「ンググ。」 コレトッテ。
アコをクイッと上げ、訴える。
ワカが舫い杭に縄を掛け、ヨシを舟から降ろした。それから布を解く。ヨシの横で、黙って見守るカナ。噛む気マンマン。
どんな悪たれも、良い子になっちゃう。
「縄は、早稲の人に解いてもらえ。」
「・・・・・・助けてよ。オレ、死にたくない。」
「曲がった心が真っ直ぐになるまで、鍛えてもらえ。」
「そんなぁ。オレ、子だぜ。」
「だから何だ。サッサと歩け、進め。」
「ウゥゥ。」 カマレタイノカ。
「ヒッ。」
ヨシ、半べそをかく。
「来い!」
ションボリと項垂れ、トボトボ。