8-227 捨てられたの?
「はじめまして。私は岸多神の使わしめ、永良部。」
「耶万の継ぐ子、アコです。」
ウロさまに似た蛇に守られている。清らだし、蛇谷社の使い蛇? この感じだと祝になるまで、姿を見せない気だな。後でコッソリ、話をしよう。
それにしても、美しい闇を纏っているな。耶万に渡すのは惜しい。このまま良那で暮らすか、浅木あたりに引き取られれば幸せに。
「あの、永良部さま。もしかして見えますか。この辺りに居る、隠とか妖怪とか。」
アコが人差し指でグルッと、大きな輪を描いた。
「見えます。」
使い蛇らしき蛇、見開いてアングリ。目をパチパチしながら、永良部を見つめる。
「心の声で話しかければ、もしかすると。」
・・・・・・ピコン!
閃いたアコ、目を閉じて話しかける。『少し前、シュルシュル聞こえました。蛇サンですか?』
焦った蛇サン、真っ青。『はい、蛇です』と答えて、姿を現わす。
姿を隠していたのは、死に際に頼まれたから。胎の子が闇を使い熟すまで、隠れて見守ってほしいと。
名は男でも女でもアコ。愛しい愛しい、私の子。そう言って笑った。
初代、蛇谷の祝に助けられてから、歴代祝に仕え続けた忠義蛇。ポロポロ涙を流しながら、黙って頷いた。
それから何があっても、黙って見守った。闇に溺れないように、殺されないように。
蛇谷神の使わしめ、ウロと同じ白蛇の隠。名を照。蛇谷神は御隠れ遊ばし、ウロも共に。
照は残って煇の子、アコを守りながら仕え続けた。
「スオさま。御伝えしたい事が御座います。」
「どうした、アコ。そんなに急いで。」
・・・・・・何だって! 申し訳ありません、永良部さま。疑っているワケでは御座いません。信じたくなくて、つい。
岸多の社の司には、先見の力。禰宜には風を操る力、祝には心の声が聞こえる。何れも強い。
岸多が強いのは、祝の力で守られているから。なんて言われるホド。
水引の谷まで来た、浅木の禰宜と話せるのだ。アコの闇なら、岸多の祝とだって話せるだろう。
「スオさま。弟は残し、兄だけ早稲に託しては。」
永良部の言いたい事は分かるのだが・・・・・・。
「親が、何と言うか。」
「早稲は風見と結び、耶万を切りました。浅木からも少し、認められたと聞きます。」
アコの言う通り。ほんの少しですが、認められました。近くの隠れ里とも、イイ感じです。
「戻った。二人とも生きてるぞ。」
良那に入って直ぐの所にアコと、親たちが待っていた。
「オトさま、アコさま。ありがとうございました。」
トシを抱きしめ、泣きながら母が頭を下げる。それから直ぐ、ヨシを思いっきりビンタ。
「私はトシを。」
「分かった。」
父からもビンタされたヨシは、獄に入れられず湯に浸かり、出された物を食べた。
『いつも通り』とほくそ笑むも、早稲へ送られると知り大暴れ。縛られたまま舟に放り込まれ、朝早く発つ。見送りは無かった。
トシは母に抱かれたまま湯に浸かり、助かった。動けるし話せる。けれど心に、深い傷が残った。
良那から一歩も、出られなくなったのだ。