8-225 居た!
集水社は集山の真中、集水湖の底にある。沢から流れ込む水が集まって出来た、天然のダム湖に。何も、沈んだのでは無い。
集山は古来より、御神体とされている。つまり、人の手が入っていないのだ。社は有って、無いようなモノ。
「集水神。良那社より使いが。」
コンと、飛んで参りました。
「して。」
ニッコリと、集水神。
「御山に、闇を放つ許しをと。」
使わしめ爽、キラキラ。
「フム、通せ。」
「ハッ。」
ここは水底、妖狐でもツライ。分かってますよ、息が出来るって。それでも何となく、ブクブクしそうで。
湖だってね、甕の縁から覗くような感じでコワイんです。切り立った崖を、滑らないようにソロソロ下って。あぁ、思い出しただけで涙が。
お願い、早くして。尾を抱いて怯える狐の身になって、お考えください。ね、恐ろしいでしょ?
「スオさま、お待たせしました。こちらへ。」
爽の後ろを、搔きながら付いてゆく。
四つ足で、上がったり下がったり。泡の中に入っているのでフワフワする。狐だって、その気になれば泳げます。上手いよ。狐だけど、犬泳ぎ。
「良那神の使わしめ、スオ。集山に闇を放つ許しをいただきたく、参りました。」
「闇の力を持つ祝を、良那に迎えたのか。」
「いいえ。耶万から継ぐ子を一人、預かっております。」
「耶万。」
戦好きで、多くの国を滅ぼした。蛇谷を滅ぼしたのも耶万。耶万の祝には確か、清めの力が。けれど、闇の力は無かったハズ。
「その継ぐ子、耶万の子か。」
「はい。前の耶万王と蛇谷の祝、煇との間に生まれました。名をアコ、男の子です。」
なんと恐ろしい。祝を奪い、孕ませたのか。蛇谷は強いが、中から仕掛ければ。
・・・・・・そうか。耶万は蛇谷を滅ぼすため、騙し偽り祝を。
「アコはナゼ、この山に闇を。」
「良那の子が二人、御山に迷い込んだと思われます。他は国守、オトが調べました。」
迷い子? 良那から集山まで、遠く離れている。子の足では。いや、橇なら。
「山に闇を放つ事、許そう。」
「ありがとうございます。」
獣の多くは冬籠り。犲が三匹うろついているが、人を襲う事は無い。
「戻ったぞ、アコ。御許しが出た。」
アコは急ぎ、闇を放つ。集山を包むように。
「見つけた、生きている。」
アコが急ぎ、闇の力で伝える。
「オトさま、そのまま進んでください。その先に居ます。」
目を凝らすと見えた。壊れた橇の横で、抱き合う兄弟の姿が。