8-224 言い付けは守りましょう
良那の南西にある集水谷、流れ込む沢の水が溜まって出来たのが集水湖。山間を縫うように流れるのが、集水川だ。
集山は大きい。山をギュッと集めたのか、アッチもコッチも崖だらけ。暮らしているのは鳥と獣たち。良い狩り場だが、とても考えられないホド険しい。
「困りましたね。」
良那の、社の司が呟く。
中の東国は冷える。この冬の寒さは厳しく、雪で集水川が隠れてしまった。
良那から離れているので、子の足では行けない。けれど親は『子だけで行くな』『近づくな』と、厳しく言い聞かせた。
お年頃なのか、生まれ持ったのか。言い付けを破る子は残念ながら、どこにでも居るモノで・・・・・・。子が二人、居なくなった。
「ウカさま。私の力を、集山に放つ許しを。」
「アコ。幾ら、何だって!」
集山は神が集め給うた山だと言い伝えられている。だから狩り小屋も建てられず、社も無い。そんな山に闇を伸ばすと言うのだ。ウカでなくても驚く。
「オトさまが集山に向かいました。」
アコが涼しい顔で、サラリ。
社に知らせが入って直ぐ、国守が犬を連れて探しに出た。オトは元、狩り人。耳とカンが良く、闇をハリネズミのように立て、飛ばして戦う事が出来る。
「良那から集山まで、とても遠い。」
「はい。頂まで良那八つ、離れています。」
良那は大国、つまり広い。それを六つだ。幾ら橇でも、子だけで行けるとは思えない。
いや待てよ。昔、父から聞いた事がある。蛇谷の祝は闇を放ち、人や物を探すことが出来ると。
「見つけたのか。」
「私の闇は今のところ、良那から岸多まで届きます。」
他は探したと。だから『攫われたので無ければ、集山に居る』と考えるのだな、アコよ。
「浅木の禰宜、リクさまから伺いました。集山に闇を放つなら、許しが要ると。」
「あ、浅木まで届くのか!」
「いいえ。リクさまが水引の谷まで、いらっしゃいました。」
ビックリしたぁ、そうだよな。浅木は水引の谷の、ずっと北にある国。エエッ! いや落ち着け。
浅木の三人は揃って、それは強い闇の力を生まれ持つ。浅木神の使わしめ、炭さまも同じ闇。思いを残して死んだ魂が集まって、生まれた妖怪だとか。
「良那神に伺おう。集山に放つのは御許しが出てから。良いな、アコ。」
いろいろ諦めたウカ、子を探す事を優先する。
「はい、分かりました。よろしくお願いします。」
「お兄ちゃん、ココ。」
集水川を目指し、南を目指したが西へ逸れた。
「どっかの山に入ったダケ。そんなに離れてないし、そのうち迎えが来る。」
強がる兄、ヨシは知らない。ココが集山だと。
「お腹空いた。」
兄弟は朝から、何も食べていない。