8-222 契約成立
木俣神は仰った。大祓の後に、人の世で何が起こるのか。どのように扱えば良いのか。
知らねば禍が齎される事、伝えねば為らぬ事を大蛇神から伺ったと。
生まれるのは合いの子だけでは無い。人から妖怪が生まれる事も有る。人の子と合いの子は、どのように見分ければ良いのか。産屋に備える品、産婆の心構えなど。
「稻羽さま。我らは確かに、大陸妖怪です。けれど戻りたくても、どうしても戻れないのです。」
「この身にも確かに、やまと妖怪の血が流れています。よって我らに、帰る国など御座いません。」
滑と竜が必死に訴える。
因みに二妖に『やまと妖怪の血』なんて一滴も流れてイナイ。いろいろパクパク食らったダケ。
合いの子と同じか、いや違う。瓢の国を認めれば、同じような国が増える。そうなれば何れ、やまとが乗っ取られるだろう。とはいえ、捨て置けぬ。
隠の世に御頼みしても断られる。生きているのは渦風社の流、流山に住まう嫌呂と悪鬼。
妖怪の墓場には悪意の他にも、多くの妖怪が放り込まれた。
流は、渦風神の使わしめ。嫌呂と悪鬼は、大蛇神の使い狐。他とは違う。では、どのように扱う。
「認めぬ。やまとに留まりたくば、『異なる国の民』として生きよ。」
「・・・・・・それは。いえ、仰せのままに。」
「滑さま。」
「静まれ、竜。」
滑に睨まれ、黙り込む。
物は使いよう。人に禍を齎す合いの子を、瓢の民に食わせれば良い。どれだけ生まれるのか分からぬが、多く生まれるのは確かだ。
調べた限り、国守が務まるような妖怪は居らぬ。人に扱える生き物では無い。となれば、いつ使う。今だ!
人と妖怪の合いの子、全てが悪しいワケでは無い。正しく扱い慈しめば、良い妖怪に育つ。違いは一つ。人を食らうか、食らわぬか。
「瓢の民が暮らす地は、大社が認めた地に限る。」
人と隠、人の物にも手を出すな。纏めた荷を持ち、塒の西にある坂を下れ。人の世の外れに、捨てられた里がある。そこに住まえ。
食らうは、悪しき妖怪と合いの子。他は決して狩るな。里に残された家、田や畑に手を入れれば、穏やかに暮らせよう。
「有り難き幸せ。しかし我ら、ング。」
「申し訳ありません。」
滑が竜の口を塞ぎ、首を垂れる。
里では狭い。これからドンドン増えるのだから、国を寄越せ。というのが竜の考え。少し前まで、似たような事を考えていた。けれど、今は違う。
与えられたのは里。捨てられたとはいえ、人が暮らしていたのだ。それなりの広さと水、作物が育つだけの日当たりなど、一通り揃っているハズ。
「儺へ使いを出した。迷わず辿り着けるよう、狐火が導く。瓢は異なる国の民が集い、住まう地。広げる事も増やす事も許さぬ。良いな。」
つまり瓢は国では無く、町として認められたのだ。鎖国中、日本唯一の貿易地だった出島のように。
「はい。皆を引き連れ、急ぎ移ります。」
「では、手の形を貰おう。」
掌に妖気を集め、大社の大札『妖怪用』にペタッ。ピッカァと光り、契約成立。一妖でも破れば即刻、瓢は消滅する。