8-221 兎ブリザート
マズイ事になった。急ぎ逃げ出さねば、我ら皆殺し。せっかくココまで来たのに!
「滑さま。この地を捨て、大陸へ戻りましょう。」
ガタガタ震えながら、泣き叫ぶ。
「鯰よ、落ち着け。何があった。」
・・・・・・それは真か? やまとは今、荒れに荒れている。これだけの闇を取り込んだのだ。仕掛けられても勝てる、戦えるハズ。
「いいえ。我らなど、一瞬で消し飛びます。」
焦点が合ってイナイ。
「王よ、死ねば終わり。生き残る道を選びましょう。」
滝のようにドバドバ、涙を流しながら訴える。
「それでも大臣か。」
瓢の臣、竜が罵る。
あの御方を知らぬから、そのような事が言えるのだ。あの御方は、あの御方には敵わぬ。あの御方に逆らえば命は無い。ならぬ、ならぬのだ!
死にたくない、死にたくない、死にたくない。こわい怖いコワイ。もう嫌だ、イヤなんだよぉぉ。
「猶予は残り二日。兎など、我らの敵では無い。」
「止せ竜! 瓢を滅ぼす気か。」
「黙れ鯰。腰抜けに用は無い、消えろ。」
「静まれ。」
滑の一声で、妖怪たちが平伏した。
鯰は強い。妖術を使えば、どのような建物でも壊せる。なのに逃げ帰って来た。それだけ敵は手強い、いや強大な力を誇るのだろう。引くか。
いや、それは出来ない。我らは半端者。大陸妖怪が、やまとの妖怪に敗れたのだ。それダケでは無い。食われ取り込まれ、帰る国を失った。
大陸妖怪で有って、大陸妖怪では無い。やまと妖怪で有って、やまと妖怪では無い。行き場の無い我らが生き残るには、神に縋るしか・・・・・・。
「竜。我と共に大社へ。」
「ハッ。」
オカシイ。言われるまま手続きしたのに、なぜ兎が出て来た。
「大社、使わしめ稻羽。」
「瓢の王、滑。これに控えるは臣、竜。大国主神への謁見を求め、参りました。」
「大陸では、会おうと思えば会えるのか。」
稻羽の目が光る。
「は?」
「気軽に会いに行けるのか。」
会いに行けるアイドル? 円盤を購入して、封入されている握手券ゲット。ウキウキしながら予約して、会場へ行くノリですか。
「失礼しました。」
滑と竜が平伏す。
「シツレイ? 大陸の言の葉か。」
稻羽が軽く、首を傾げた。
「はい。礼儀・作法に外れた振る舞いをすること。つまり・・・・・・、守るべき行いを・・・・・・。」
竜、シドロモドロ。
「稻羽さま。瓢の民が残る事、御許しください。」
「滑王。荷造りはお済みか。」
出雲に雪嵐が!
大国主神の御言葉を伝えるため、姿を現されたのだ。この御方に逆らってはイケナイ。従わねば消される。