8-220 ノックアウト
国に人を住まわせない。という事は、奴婢を入れないのか。人を食らわないなら何を食らう。確か、海の向こうの妖怪は・・・・・・。
思い出せ稻羽! ハッ、そうだ。人を融かす水に漬けて、酒のように味わって飲むのだ。オソロシイ。
「人を攫わず虐げず、食らう気も無い。加えて住まわせぬならナゼ、人の住まう地に国を建てた。」
コイツ鋭い。大国主神に仕える兎も、イナバだったな。よく見ると、他の兎とは何かが違う。何だ。まさか、コレが隠か。隠神なのか。
マズイ、引こう。
「我らは生き残りをかけ、この地に参りました。彼の地では弱い妖怪など、食われるか使い捨てられるか。」
女形のように撓垂れ、袖で口を覆った。
「そうか、で。」
本気を出した稻羽は、草食なのに肉食系。
心して事に当たらねば、再起不能に近い打撃を受ける。物理攻撃では無い。精神攻撃により、外交という名のリングでノックダウンされ、マットに沈むのだ。
見た目はモフモフ、中身はキレキレ。それが使わしめ、稻羽。
「我らは争いを望みません。ただ、この地で幸せに暮らしたい。それダケなのです。」
「何が望みだ。」
「この地で暮らす許しを、いただきたいのです。」
「ならばナゼ、国を建てる前に申し出なんだ。」
食われる、飲み込まれる。マズイまずいマズイぞ、考えろ。この場を切り抜けるには・・・・・・。
「申し訳ありません。やまとに大社が在るとは知らず、国を。」
「嘘は止せ。鎮の西国、儺国の外れに建てたのだ。知らぬワケなかろう。」
「お待ちください。嘘など、決して。」
稻羽は兎神の末っ子。隠や妖怪が知らないアレコレだって、ジャンジャン入ってくるのです。他の兎は騙せても、稻羽は騙せません。
「儺国の王は気が荒い。許し無く、国を建てれば戦になろう。つまり瓢は人に気付かれぬよう、動いた事になる。」
コイツ、どこまで掴んでいる!
「なぜ隠す。」
・・・・・・。
「直ぐには答えられぬか。」
稻羽、ニヒルな兎チャンになる。
瓢が建てられたのは昔、儺国が滅ぼした国の跡地。
多くの生き物が暮らしていたが、アンナとマリィが吸い尽くした。残された骸を妖怪が食らった事で、居抜きとなる。
「人から隠して国を建てたのでは無い。滅んだ国に『これ幸い』と住み着いたのだ。」
もうダメだ。降伏して、翼下に入るしか無い。
「申し訳ありません。」
鯰が平伏す。
「直ちに荷を纏め、やまとから立ち去れ。三日の後、兵を差し向ける。」
「そのような事、急に言われましても。」
少しでも、ほんの少しでも時を稼がねば。
「禍を齎す妖怪は消す。魂ごとな。」
圧倒的な強さで圧し潰され、息も出来ない。強い殺気と狂気を纏った兎が、山のように大きく見えた。