8-217 蛇谷の血
腰麻の四姫、アキは消滅した。
体はアンナとマリィに食われ、魂は紅蓮の炎に包まれて。闇に飲まれたのか、それとも操ったのか。今となっては確かめようが無い。
けれど娘に植えつけた闇は三つ全て、加津の祝に清められる。もう、何も残っていない。
朝なのに加津まで行き、見届けたユラは思う。『何が悪かったのだろう』と。
ヒシヒシと伝わる痛み、苦しみ。気の毒? そうは思わない。己がした悪い行いの報いを、己が受けたダケのコト。
四姫は甘やかされて育った。叱られる事も耐え忍ぶ事もなく、ただタダ甘やかされて大きくなった。何でもアキの思い通り。己を軸に、全てを考える。
そんな娘が、認められるだろうか。
家の中ではチヤホヤ、外では・・・・・・。
そりゃ生き難いだろう、辛いだろう。子を育て躾けるのは親の務め。それを投げ捨て、マコは己だけを愛した。つまり子が、子を産んだのだ。
「ユラさま。」
「ロロさま。私はユキに、何を。」
「どんな時も見捨てず、そばにいる。私なら、そのように。」
「そう、ですね。」
譬え人の世、隠の世に認められなくても、私だけは認めよう。受け入れよう。ユキは一人では無い、私が居る。それで良い、それが良い。
妖怪の祝は珍しい。きっと心の強さや、力の程が厳しく試される。そんな苦しみが待っている。それらを乗り越え、生きなければイケナイ。
ユキ。この命ある限り、ともに生きよう。決して一妖にしない、誓う。だからネ、笑っておくれ。
「大貝神?」
使わしめ土、キュルルン。
「・・・・・・耶万のアコも、闇を。」
「はい。生き物に植えつけ、闇を吸わせて実を付けさせると。」
「アコも、腰麻のように。」
「浅木社からの知らせによると、それは無いと。」
良那社でシッカリ学びながら、闇の力と向き合っている。
アコは祝の子。蛇谷の祝は闇の力で、守りたい全てを守る。耶万が仕掛けて来た時も、そうして力を揮った。
祝が奪われなければ、蛇谷が滅ぶ事は無かっただろう。敵が入り込んでいるナンテ誰も、夢にも思わなかった。裏切り、いや違う。偽っていたのだ、はじめから。
蛇谷は小さいが豊かな国。だから多くの村や国に狙われ、仕掛けられた。国守が攻め、祝が守る。それが蛇谷の戦い方。つまり、祝を奪われれば滅ぶ。
蛇谷の子を質に取り、祝を捕らえた。『誰も殺さない』と誓ったのに毒を撒いて、蛇谷の皆を嬲り殺した。耶万の大王に祝を差し出したのも、水手だったスイ。
蛇谷の血を引くのはアコ、たった一人。
誰が父なのか、生まれるまで分からなかった。耶万王が父だと判り、継ぐ子として社に預けられる。殺される事は無かったが、母なき子。
当たり前のように、酷い扱いを受け続けた。
祝は蛇谷で起きた全てを闇に移し、我が子の魂に刻む。余すところ無く、伝えるために。
祝の力が有ると気付かれれば、きっと使い捨てられる。だから闇に飲まれる事なく使い熟せる器が出来るまで、その力と共に隠された。
「蛇谷の者は皆、魂が強い。闇に飲まれる事なく皆を導くでしょう。アコを信じましょう。」
ずっと昔、蛇谷神の使わしめ、ウロさまから伺いました。蛇谷の祝は皆、闇から光を引き出すと。
アコは母から、光を託され生まれた子。耶万より蛇谷が強い。ですから、きっと。
「ウム。そうだな、信じよう。」