8-215 レディファーストってヤツさ
そうですか、そんな事が。ハァ。
サハには強い清めの力が有ります。サッと、パパッと清めるでしょう。けれど、気になりますね。
己を切り取り切り分け、人に植えつける? 『闇の力は底が知れない』とは思っていましたが、ヤレヤレ。
闇を植える力なら、耶万の継ぐ子にも有るとか。
蛇谷の生き残りですから、恐れる事はありません。しかし腰麻の四姫にナゼ、そのような力が。
「あの、申し上げにくいのですが。」
「はい、何でしょう。」
「四姫アキは側女、マコの子です。」
死んだ腰麻の王は色好み、いや色狂いだった。子を成した側女だけでも五人。飽きてポイされた側女は判っているダケで、ざっと二十を超える。
その多くはマコに虐められ、心を病んだ。
正妃イナから生まれた子は守られたが、側女から生まれた子は・・・・・・育たなかった。お察しの通り、マコに嬲り殺されたのだ。
腰麻の力を削ぐため万十は、王の従姉イナを縁付けた。
マコは万十の臣の娘。腰麻王とイナ姫の『契りの宴』に出ていたのだが、有ろう事か、腰麻王に一目惚れ。
マコは万十の大臣の倅と『契りの宴』を控えていた。にも拘らず、腰麻王の寝込みを襲う。
となると、どうしようも無い。万十との繋がりを絶つ事を定めた上で、マコは王の側女となった。
「腰麻の民を守るため、力を尽くした正妃と違い、疎まれていたと。」
「はい。正妃イナや大臣ら、腰麻のために尽くした人が死に絶え、マコが正妃になりました。」
「ころ、いや。」
「手を下さなかったダケ、似たようなモノです。」
ソウデスカ。
「正妃になっても変わらず、腰麻の民を苦しめました。」
マコは生き残るため娘、四姫であるアキを国守に据えた。多くの罪を犯したとはいえ、行き所が無い妖怪姫。腰麻でしか生きられない。
国守なのだから、その母なのだからと、アキもマコも思いのままに振舞い続けた。その心は決して満たされる事は無い。割れた器に、水を注ぐようなモノ。
「ミカさぁん!」
イイが泣きながら駆け寄る。
「ただいま、イイ。」
屈んで抱き留めたミカが、イイの背を優しくポンポン。ゆっくり抱き上げ、泣き止むまで宥め続けた。
見た目は幼子だが、生まれて一年も経ってイナイ。育つのが早いダケの嬰児。
身も心も全て差し出して、親の温もりを求めている。そんな子に三つも、寂しい朝を迎えさせた。
オレは加津の国守。何を措いても、加津を守らなければ。
腰麻とは離れているが、アレを野放しにすれば禍を齎す。多くの命が奪われる。だからゴメン、断れなかったんだ。
「ほら、シッカリなさい。」
ツサに手を引かれ、サハがフラフラと歩く。
怠くてタマラナイ。でも祝だし、清めなきゃ。えっと何だっけ。腰麻の国守だった妖怪が、己を切り取って・・・・・・。痛そう。
生まれ持ったのが『清め』の力で良かった。
男は痛みに弱い、女は強い! オスの子犬はね、メスとのケンカに負けるんだ。勝ちを譲るんだヨ。ツサさま、知ってた?
「サハ。起きろ、サハ。」
頬をペチペチされても何やら、ムニャムニャと呟く。
祝 ~hafuri~ 連載二周年。
これからも応援、よろしくお願いします。