8-214 マズイな
日が昇って直ぐ、悦から近づく悪しい何かに気付いた。ミカが闇を伸ばし、モトが構える。
「姿を持たない何かがフワフワ揺れながら、吸い寄せられるように、こちらへ。」
悦の方を向いたまま、ミカ。
「生きて?」
構えたまま、モト。
「いや死んでる。何かに深く囚われて、忘れない動かない心、かな。ソレが魂を引っ張って、残ったんだろう。」
「ソレは、アキなのか。」
「違うと思う。アキを捨てに行った時、采で感じた闇に似ている。」
「ってコトは、エッ。」
クベが頭を抱える。
「海を越えて来た、バケモノ。」
フタが呟く。
「・・・・・・かもな。」
闇を戻しながら、ミカがポツリ。
この地は、大貝山の統べる地は閉ざされている。行き来できるのは、生きている人と獣だけ。隠も妖怪も、許しなく出入り出来ない。
采で執り行われた大祓により、悪しきモノは祓い清められた。その中にはアンナ、マリィも含まれる。
力を奪われた二人は、アキを食らって身を滅ぼした。
つまり腰麻に向かっているのは、アンリエヌの二人とアキ。二つ魂と一つの器。形を留めないホド打ち壊され、残ったモノ。
「マズイな。」
「急いで、加津の祝に。」
モトとフタが見合う。
「悪いがアレ、闇で。」
「はい、包みます。」
ミカに頼まれ、クベが甕ごと包んだ。
モトはユキに、フタは社に伝えるため、腰麻に残った。ミカとクベは橇で、今井を通って加津を目指す。
「アッ!」
イイが飛び起き、駆け出した。
「これ、イイ。」
社の司が慌てて、イイを抱き上げる。
「ツサさま。帰って来たの、もう直ぐ会える。」
寝ぼけて・・・・・・いる、ワケでは無さそうだ。この喜びよう、ミカだろう。だが、幾ら何でも早すぎる。
何か有ったのか。いや起こるのだ、これから。
困った。
サハは朝が弱い、私の力は弱い。清められるが、いや待てよ。イイが笑っている。というコトは、今すぐ何かが起こるワケでは無い。
「顔を洗って、身なりを整えなさい。」
「はい、ツサさま。」
ニコッ。
腰麻の祝は、光の力を生まれ持つ。耶万に殺され皆、死んだが一人。継ぐ子だった娘が、妖怪になって戻った。
闇の力を宿した事で、光の力を失った、か。
腰麻に集まったのは大石、千砂、加津。後から会岐が加わったと聞く。五つの社、加津にしか無い。
「清め、か。」
サハを叩き起こし、備えよう。
「雪の中から、すみません。腰麻社の闇蛇、ユラと申します。」
「おはようございます、ユラさま。腰麻で、何が起きたのですか?」
イキナリ直球、真っ向勝負!