8-212 残り一妖
イイは幼子。あの家に一妖、待たせる事は出来ない。だから預かったのだが。
「もう食べないのかい?」
社の司に預けられ、二つ朝を迎えてから急に、食が細くなった。
「お腹が空かないの。」
小さな椀にチョコッと入れられた粥を、休み休み平らげ、ポツリ。
イイはミカから、装うた物は残さず食べるよう、厳しく躾けられている。育ち盛りなので、ビックリするホド食べるのだが・・・・・・。
「お産が終われば戻ってくるよ。」
祝に慰められ、黙ってコクンと頷いた。
腰麻で生まれる合いの子は他とは違う。詳しくは知らないが濃く、深い闇を纏っているらしい。
腰麻の国守だったアキは人を、それも母を食らった。食らう前か食らってからか。狂ったように暴れ、取り押さえられる。妖怪の祝に。
角が太く長くなり、牙は二つから四つに増え、獣のように呻っていたとも。
「ごちそうさま。」
そう言って、椀と匙を片付け始めた。
もしイイが。いや、それは無い。合いの子だから育つのは早いが、厳しく躾けられた良い子だ。人を襲ったり食らったりシナイ。
闇か。耶万から溢れた闇は大祓により、消えて無くなった。采に集まった悪いモノも、全て。
大貝山の統べる地から、あの闇は消えた。・・・・・・ハズだった。
「ツサさま。ミカさんは、いつ。」
祝サハが、控えめに尋ねる。
「続くかも、とは聞いたが。」
社の司、ツサがポツリ。
加津は千砂に加え、会岐や大石とも結んでいる。耶万に滅ぼされたが、国として残された。
言いたい事はイロイロあるが、今は止そう。
腰麻に向かったのは三妖。大石、加津、千砂の国守だ。腰麻には妖怪の祝が居る。つまり一妖では扱いきれない、そんな赤子が生まれるのだ。
『続く』という事は二妖か三妖。もっと生まれる、かもしれない。イイのように育てるのか、生まれて直ぐに殺すのか。何れにせよ、かかるだろう。
「ツサさま、サハさま。お休みなさい。」
イイがペコリと頭を下げて、床に就く。
泣いているのだろう。お気に入りの熊皮を被って、丸まっている。少しでも食べるし、機を織っている間は楽しそうに見える。
見守るしかない。
「来るぞ。」
四妖が見合い、頷く。
残り一妖、気を引き締めて掛かろう。立て続けに生まれたんだ、気付かれて無い。今は。
「さぁ着いた。疲れたでしょう?」
布に包まれた美しい嬰児、参。壱や弐と同じ。闇を吸い、育つヤツだ。
「お休みなさい。」
ソッと頬を撫で、ニッコリ。