8-211 なんと恐ろしい事を
「来るぞ。」
ミカの一声で、緊張が高まる。
男児を出産した娘は、我が子の産声を聞きながら旅立った。幸せそうに微笑んで。
「さぁ、着いた。疲れたでしょう?」
布に包まれた美しい嬰児、弐。壱と同じだ。闇だと吸われ、動けなくなる。だからユキは初めから、癒しの力で防いだ。
「お休みなさい。」
ソッと頬を撫で、ニッコリ。
「フアァァ。」 ヒトメムリスルカ。
人と同じように生まれるって、疲れるなぁ。何だよアレ、狭い苦しい信じらんねぇ。眠い。腹減ってんのに、瞼が・・・・・・。
壱が言ってた、闇の女。ドコに居るんだ? ユキはユキでも、コイツじゃねぇ。妖怪でも祝だし、向こうから来るな。ヨシ、起きたら食おう。
「ギャッ!」 エッ!
柔らかい何かの上に寝かされ、瞼を閉じる。そしたら胸を貫かれ、骨ごと真っ二つ。妖怪だって、心の臓を刺されれば死ぬ。
クソッ! まだだ。移って・・・・・・。
出られない! 出せ、出しやがれぇ。参、マズイぞ。闇を持たないユキには連れが。闇に閉じ込められて、切り刻まれる。
逃げろ! いや違う、二年は偽れ。
「切り刻んでも動けるとは。」
モト、ゲッソリ。
清めの水が入った甕に、クベが闇ごと突っ込んだ。初めの一撃はモト。間髪を容れず、ミカが串刺しに。
弐は事切れる。クベの闇の中では、声も思いも伝えられない。だから次に生まれる参は、何も知らない。
壱も弐も外で待っている。三妖の力を合わせ、強い器になるんだと信じて疑わない。
「始まった。」
ミカが呟く。
清めの水に沈められたクベの闇から、モトがソロソロと引き抜いた。それからミカが、ソロソロと引き抜く。
アキの分身入り、闇の包みが二つ。まだモゴモゴと動いている。
「エッ!」
クベが叫ぶ。
闇を切り取れば、包みの十や二十。けどコイツら、何て言うか気持ち悪い。闇を吸い込もうとして、張り付くんだ。
吸っても噛んでも闇、出ないのにナ。
「大貝神、大貝神。」
ハッ!
「少し、休まれては。」
「御心遣い、ありがとう。耶万神。」
妖怪になった者は珍しくない。しかし己を闇に移し、人に植えつける妖怪は。
腰麻のアキは己を切り取り、三つに分け、人の胎に植えた。嬰児として生まれるように。
闇を食らいながら、人を同じように育った器を、何れ一つに。
四姫でも姫は姫。飢える事も凍える事もなく、慈しみ育てられたハズ。なのに、なんと恐ろしい事を考えるのだ。