8-208 まだ動けるのか
「ウッ、ウム。」
土は思った。『コワイこわい、怖すぎる』と。
聞けば聞くほど、恐ろしい。
四姫アキ。妖怪の国守として、腰麻に仕えていた。なのにナゼ、腰麻の人に植えたのだ。いつ植えたのだ?
祝の力は一つでは無い。水、風、土、火。木や岩、川や山、森や林。光、影、闇などイロイロ。中でも闇の力は多く、生き物に種を植えつける力も。
広く知られているのは祝辺の、隠の守。
ふたつ守には生き物に闇を植え付け、従わせる力が。みつ守には生き物に闇を植え付け、操り動かす力が有る。二隠とも幼いが、ひとつ守の言い付けダケは守る。
良那に預けられている、耶万のアコが生まれ持ったのは、闇を植えつけ光に変える力。使いようによっては、人を従わせる事も。
「生まれました。」
闇を伸ばしたまま、ミカが一言。
「して、娘は。」
ゴクリ。
「産声を聞きながら、息を引き取りました。」
・・・・・・分かっていたのに、心が痛い。
思い人の子を宿し、生きて腰麻に戻ることが出来た。ひとりでも産んで育てる。その思いが、生きる力になったのだろう。
胎の子は妖怪の子。人と妖怪の、合いの子。せっかく生まれて来たのに、生かしておけない。あの禍禍しさ。殺さなければ、禍を齎すだろう。
「来ます。」
ミカが囁く。
言の葉が出ない。
ドス黒い闇が牙を剥き、こちらへ近づいている。仕留めなければ、多くの命が奪われる。先読の力も、先見の力も無いが判る。アレは良くない。
布に包まれた美しい嬰児、壱。ユキは闇では無く、癒しの力で防いでいる。闇だと吸われ、動けなくなると気付いたのだろう。
「さぁ、着いた。疲れたでしょう?」
腰麻の外れに建てられた、新しい産屋。『まだ使えるから』と残したが、それダケでは無い。
『産めば死ぬ』なんて、誰にも。だから母の骸を葬るため、嬰児を離しても疑われないココを、敢えて選んだ。
産屋の側に建てられたのは、アキが側女と暮らしていた家。一度バラバラにして移した。ソコソコ大きいので、闇の力を使っても驚かれない。
「お休みなさい。」
ソッと頬を撫で、ニッコリ。
「フアァァ。」 ツカレタァ。
人と同じように生まれるのって、疲れるわぁ。あんなに狭くて苦しいなんて、思わないじゃない? お腹空いたけど、すっごく眠い。起きたら食おう。
にしても、この女。闇の力が有るクセに、なんで引っ込めるのよ。吸い取れないじゃない。使えないわね!
「ギャッ!」 エッ!
柔らかい何かの上に寝かされ、瞼を閉じた。その時、胸を。妖怪だって、心の臓を貫かれれば死ぬ。他の子に知らせようと、息を吸い・・・・・・。
あれ? どうなってるの。アタシの体、真っ二つ。
首を落とされ、頭は潰されグッチャグチャ。エッ、死んだ? 知らせなきゃって、出られない! 出して、出してよぉ。
「まだ動けるのか。加津の祝に、清めてもらおう。」
ミカが見開き、呟いた。