8-206 止められないの
ユキはポロポロ涙を流しながら、ペタンと座った。一人じゃ無かったから。他にも同じような娘が、三人も居たから。
「采に捨てた、アキだっけ。」
「はい。」
「三人から、同じ闇を感じる。」
「ミカさん、何を。」
「あのな、ユキさん。妖怪アキは、腰麻の生き残りに植えつけたんだ。闇の種を。」
な、何ですって!
フワッと闇に包まれた。見上げると、クベが笑って頷く。叫んでイイの?
「アァァァァァァァァァァァァ!」
頭を抱えながら絶叫。
「アキめぇ、何てコトをぉぉ!」
強く噛んだ唇から、牙がヌッと出た。
「殺ぉすっ。打っ殺す、殺してヤルゥ。」
ユキの体からブワッと出た闇を、角がグングン吸い込む。ドクンと脈打ち、ニョキッと伸びた。
「『気持ちは分かる』なんて言わないよ。けど、落ち着いて。」
クベの闇が縮まって、ユキを捕らえていた。身動きどころか指さえ動かせない。暴れても伸びるダケ。直ぐにシュッと、押さえつけられる。
「アキは死んだ。采で生きたまま、バケモノに食い殺された。」
そう、だった。
「何を思いながら死んだのか。悔いたのか、赦しを請うたのか。誰にも何も分からない。」
そう、ね。
「けど、死んだのは確かだ。」
そうよ。アキは側女を食い殺して、叫び声を聞いて駆け付けた人まで食らおうとした。だから私が捕まえて。田鶴さまに御願いして、それで。
「思い出したかい。」
「はい。ありがとうございます、ミカさん。」
「叫んでスッキリしましたか?」
「はい。ありがとうございます、クベさん。」
植えつけられた闇から生まれる、妖怪の子たち。魂に絡みつき、深く根を下ろしている。引き剝がせば娘も死ぬ。何を、どうしても助からない。助けられない。
今、殺されるか。子を産んで死ぬか。どちらか好きな方を選べ。なんて言われれば、取り乱すだろう。
胎に居る三妖は、外で何が起こっているのか。誰が誰と、何を話しているのか。そんな事まで分かるようだ。
「子ってのは良いモンさ。オレは男だから産めないが、育ててるから解るよ。女の人は凄いな。胎の中で育てて、命を懸けて産む。」
「はい。ミカさんは、産ませてやりたいと。」
「幸せそうな顔して、腹に手を。そんな人をさ、殺せないよ。」
「そうそう。人だった時はイロイロあったけど、オレたち生まれ変わりました。それにオレ、子だけど親です。」
大石の人は皆、大きい。クベだって体つきだけ見れば、十七か十八。十で死んだので、幼い顔をしている。
「フフッ、そうでしたね。ごめんなさい。」
背伸びして大人ぶるクベを、カワイイと思ってしまったユキ。笑ってはイケナイ。でも、止められないの。