8-204 考える神
「ミカさん、腰麻へは。」
「帰りにな、寄ろうと思う。」
腰麻社からは『産まれる前に、腹が裂けて死んだ』と。『母の骸を摘まみ食いしながら出て来たので、直ぐに殺した』とも。
・・・・・・気になる。
死んだ腰麻の国守が、アヤシイのを片っ端から潰していた。だから恐ろしく賢いのが長く潜んで、外に出るのを待ったかも。
ヒイは大石、フウは千砂。どちらも母と引き離せず、殺した。もの凄い声で叫んだから、伝わったとしてもオカシクない。
千砂は遠く離れているが、大石は。
「腰麻には、恐ろしい何かが。気の所為ならイイけど。もし出てきたらユキさん、戦えるかなぁ。」
クベの言いたい事は分かる。ミカの考えも、そう変わらない。
「腰麻の生き残りを探し出して、戦ったらしい。」
闇を刃に変え、鞭のように操ります。強いよ!
ミカは気になっていた。采に捨てた妖怪の姫、アキ。その魂は滅んだのか。根の国へ行き、清められたのか。
望まれて国守になったダケの妖怪には、残念ながら何も分からない。確かめようにも術が無い。
残った魂が闇を取り込み、腰麻に戻ったとしたら。あの地で執り行われた大祓に、耐えたとしたら。
清められ、牙と角が取れれば良い。けれど、もし。
考えれば考えるホド恐ろしい。
イイは幼い、守り育てる親が要る。この命ある限り、加津を守り抜く。けど死ねば? 残されたイイを、誰が引き取って育てるんだ。
「クベ。オレが死んだら、イイを頼む。」
「なっ! 何を言うんですか、ミカさん。オレも行きます。」
「いいや、クベ。それはイケナイ。オレたちが死んだら、ムゥもイイも『親無し』になる。ムゥは会岐、イイは千砂に引き取られるだろうが、寂しい思いを。」
「解ってるなら連れて行ってください。オレの力が有れば、守れます。」
腰麻を調べる、それは良い。確かめたい事、気になる事あるし。
けど、だからさ。オレたち二妖とも、他の国守とは違う。白い目で見るヤツだって居るんだぜ。
もう、そんな目で見ないでよ。・・・・・・ハァ。ミカさん、強いよね。決めたら成し遂げるまで、決して諦めない。凄いよ。
「なぁクベ、オレだって死にたくない。イイが育つまで死ねない。だから、こうしよう。」
「腰麻の外から、調べるんですね。」
「あぁ。社を通して、調べる事を伝えてからな。」
「どうした、土。」
「大貝神。腰麻の国守だったアキの魂、清められたのでしょうか。」
「耶万神は『滞り無く終わった』と。」
「はい。けれど気になるのです。海を越えて来たバケモノ、その魂。」
「・・・・・・確かに。」
残っている、の、ですね! あれ、何ですか。続きを御聞かせください。『考える神』って札、立てちゃいマスよ。
「土よ。なぜ大貝山には、国守が居らんのだ。」
「この山には里も村も、狩り小屋さえ御座いません。」
御神体で狩り? 暮らす? とんでもない!
「そうか。」
「麓には御座いますが、妖怪の国守は一妖も。」
「居らんのか。」
「はい。」