4-26 絶叫
祝は言った。
「命は一つしかない。早稲の罪人ども、聞け。多くの命を奪っておいて、一度しか死ねないのだ。だから、獣谷までは、死なせない。何度も、何度も、何度でも痛めつける。」
獣谷。狩り人でも、近づかない。暴れ川と、三つの山に囲まれた、見晴らしの良いところだ。だから、危ない。逃げられない。そんな獣だらけの場所で、仕置を執り行えばどうなるか。間違いなく獣が集まる。
木に縛りつけるだけなら、良い。さっさと舟に乗り、逃げられる。しかし、いろいろ切り取って、何だかんだ。となると、飛び散る。三人分。
早稲の罪人たちは、罪を重ねすぎた。遺族たちによる制裁。当然、生易しいものではない。執行中、獣に襲われたら。
深い考慮が払われ、仕置場で痛めつけてから、舟に乗せることになった。
「グギャァァ、グッガッ、ギャッ、ガガガァァァ。」
罪人たちは叫ぶ。噛まされた太い枝。両の端には布が括りつけられ、外れないように縛られている。痛みに耐えられず、気を失う。すると、水を掛けられる。
まず、日吉のサブ。次に草谷のヒコ。そして茅野のタツと同じ、痛みと苦しみが与えられる。もちろん、死なせない。
「ギャッ、ヲレバッアァァ。」
「悪くない? ふざけんなぁぁ。」
罪人たちは、やっと理解した。虐げてはいけなかったのだ。奪ってはいけなかったのだ。早稲の村が、狂っていたのだ。重ねられた悪行。罪の深さ。気づかなかった。悪いことをしていたなんて。誰も教えてくれなかった。
違う。聞こうとしなかったのだ。それで、こうなった。言われたじゃないか。それなのに、聞き流してしまった。ごめんなさい。許してください。もうしません。だから、助けて。
「グガァァァ。ガズゲェェ。」
「オレの子も、助けを求めたはずだ。それなのに、それなのに。」
「ガガガァァァ。」
早稲の村は、歪んでいたのだ。罪人たちは、思い知る。もう遅い。でも、やっと。嫌というほど。
「グガッ、ギャッガッ。ガァァァ。」
響く。断末魔の叫び。決して許されない罪。多くの命を代償にして、何を勝ち取った?
後悔しても、謝罪しても、決して許されない。それだけのことをしたのだ。
「グガァグギャァ、グッガッギャッ、ガガァァァ。」
いっそ、一思いに死にたい。本気で思った。本気で願った。しかし、仕置は続く。次の日も、その次の日も。
こんなに苦しいのか。こんなに辛いのか、苦しいのか。痛い、助けて。ごめんなさい。もうしません。だから、だから。
「起きろ。逃げられると思うな。」
再び、響く。
「グガァァァ。」
どんなに痛めつけても、帰ってこない。死んだ者は、戻らない。わかっている。わかっている。それでも、思う。同じ痛みを! 決して許さない。
返せ! 返してくれ。頼むから、返してくれよ。
次回、釜戸社編、最終話!
お楽しみに。




