8-203 ぶり鰤ブリィ
藁で作った靴を履き、楽しそうに歩くイイ。箱魚籠を抱え、側で見守るミカの背には、鰤が入った大きな籠が。
冬といえば鰤! というコトで、久しぶりに舟を出した。
イイは狩りより釣りに向いている。釣り糸を垂らすと直ぐ、次から次にヒョイヒョイ。アッと言う間に魚籠がイッパイ、鮮魚仲良くビッチビチ。
『そろそろ戻ろうか』と声を掛けた時、中りが来た。
大きい! 撓う竿を強く握り、踏ん張る。舟が大きく傾いたので、闇を伸ばして支えた。魚も『負けるモンか』と、力を尽くす。
ミカから伸びる闇にイイ、びっくり。
悪いモノでは無いと見抜き、直ぐに慣れた。戦いは続き・・・・・・ブチッ。釣り糸が切れました。
苦笑いしながら闇を戻すと、パクパク。いや、ガブガブと何かが。思い切って引き上げると鯉幟のように、ブラァンと鰤が並んでいた。
イイ、大喜び。
「こんにちは、長。」
「こんにちは、イイ。釣れたかい?」
長は朝、手を繋いで海へ向かう二妖を見送った。竿と魚籠を持っていたし、浦頭から『舟を貸した』と聞いていたので、『釣りだろうナ』と。
「はい。いっぱい釣れました。」
ニコッ。
「おや、それは?」
ミカの背に、見慣れないモノが。黒くて大きな籠のようだが、何だろう。
「鰤です。ビックリするホド、多く釣れました。」
ミカが籠の蓋を開けると、そこには・・・・・・。ぶり鰤ブリィ。
「えっ!」
長だけじゃナイ。見た人みんな、オッ魂消る。
「良かったら、どうぞ。」
舟に山盛り、釣れましたからネ。
「貰ってイイの?」
子らが目を輝かせ、ワクワク。
「良いよ。家一つに、一匹な。」
「ハイッ。」
今夜は鰤のフルコース。刺身、塩焼、照焼などナド美味しいよ。寒ブリは特にネ。
「ロロさま。鰤が釣れたので、神に。」
ゴクリ。
「あの・・・・・・。」
ハッ!
「ウム、確かに。」
イイは食べ盛り。つまりミイもヨヨも、ムゥも食べ盛り。
今は冬、狩れなくはナイが難しい。だからイイを社の司に預け千砂、会岐、大石の順に、魚を配って回る事にした。
千砂は大磯川が近いので、いろいろ釣れる。会岐と大石は山の中。当たり前だが、釣れるのは川魚。つまり何れも、海水魚を一匹マルマル食べるなんて稀。
「美味しそう! 食べてイイ? ミカさん、ありがとう。」
ミイは食いしん坊。お礼を言う前に、本音が出ました。
「ミカさん、いつもありがとう。いただきます。」
ヨヨはシッカリ者。稀に策に溺れるが、良い子だ。
「わぁぁ! 大きい魚。ありがとう、ミカさん大好き。クベさん、食べてイイ?」
ムゥは聞き分けが良い。体が大きいコトもあり、好き嫌いせずモリモリ食べる。