8-202 死刑か、私刑か
言霊は存在する。
休みなく刺さる言葉の刃に、マツの心にヒビが入った。猛毒は魂にも達し、ジワジワ蝕み牙を剝く。
「生きたまま、火にかけろ。」
「甘い!」
「生きたまま、水に沈めろ。」
「ぬるい!」
「生きたまま埋めろ。」
「足りない!」
「生きたまま、獣に食わせろ。」
嫌だ、どれも嫌だ。
火あぶり、水攻め、生き埋め? ナゼそんな恐ろしい事を。オレは悪くない、悪くないんだ。なのに生きたまま、獣に食わせるだと!
「オイ、ここから出せ。」
格子を掴んで大騒ぎ。
「出せ、出せ、出しやがれぇ。」
ガンガンしても壊れない。
「出してくれ、助けてくれよぉぉ。」
こわいコワイ怖い、恐ろしい。誰でも良い何でも良い、ココから出してくれ。逃がしてくれ。頼む、頼むよ、頼みます。
家に帰りたい、死にたくない。助けて、お願いします。助けてください。誰でも良いから、何でも良いからココから出して。
「許せない。」
「オレたちで裁く。」
海でも言われたな。
アレもコレも同じ、オレを責める傷つける。もう嫌だ。オレは悪くない、信じてくれ。早くココから出してくれ、許してくれよ。
弱いから死んだ、負けたから死んだ。それダケのコトじゃナイか。オレは、おれハ・・・・・・悪く、ない。悪くナイわるクなイ、ワルくないンダ。
「アハッ、ハハハッ。」
生まれたての赤子は真っ新。
光江に生まれたから、オカシクなった。歪んだ。狡賢くて、ヘラヘラと強い者に媚び、弱い者を喜んで虐げる。それが当たり前。
だからアチコチから攫って、ジャンジャン売り捌く。
「オレハ、ワルクナイ。ワルクナイゾ。」
耶万の大王に知られ、一人残らず奴婢になった。
滅ぼされた国は多いが、『滅んで良かった』なんて言われる国は多くない。いや、ソコソコ多いか。井上、采、悦、大野。久本、光江、安、安井。ドコも酷かった。
中でも采、悦、大野、光江、安のは人じゃない。バケモノだ。
「何が悪くないだ。」
「人攫い、人殺し!」
「死んで詫びろ。」
静かに暮らしていた。幸せに暮らしていた。なのにイキナリ攫われて、モノ扱いされた。縛られて閉じ込められて、言えないようなコトされて、売り払われた。
「ケダモノ!」
「人で無し!」
悦のシュウ、采のユリ、大野のカズ、安のミエ。そして、光江のマツ。五人に言われるまま、攫いまくったヒトデナシ。
捕まり裁かれ死んだモノ、裁かれず死んだモノ、しくじって殺されたモノなどイロイロ。
生き残りは大野のガガと、光江のマツだけ。
ガガは釜戸社と浅木社で裁かれ、縛られたまま垂れ流し。マツは吹出山の獄に繋がれ、この通り。




