8-201 次はテメェだ
走りながら胴上げ状態。
ズルズルしても大丈夫! ワンコは賢い。陣形を保ったまま、落っことさないように移動。護送対象が中央に留まるよう、計算されている。
乗り心地は・・・・・・。
逃げようとしても体が思うように動かず、苦しむマツは知らない。これから何が始まるのか、どんな扱いを受けるのか。
「戻りました!」
ウコの横には、グッタリしたマツがゴロン。
「コレは。」
エッ! 社を通して話が。みんなも聞いたよね?
加津から国守を出せない。捕らえたマツを生きたまま、犲に託す。そう聞きました。
でもね、どう見ても死にかけてるから。耶万に引き渡すまで、生かしとかなきゃイケナイのに。
そりゃぁ今から転がすよ。光江に殺された人たち、続続と詰めかけてマス。
楽しみだなぁ。アんなコトやコんなコト、いろんなコトが起こるよ。殺させないし、死なせないからネ。
『逃げられる』なんて思わないで。
他のは死ねたのに、ナンデ。こんなに苦しいのに辛いのに、ナンデ。いっそ殺して、死なせて。なぁんて考えても、思い通りにサセナイよ。
「ウコ。」
「ヒャイ。」
「ソレを直ぐ、坂の前にある獄に打ち込め。」
不気味な生き物が対峙して、己を食おうとしている。突き殺されるのか、噛み殺されるのか。ドッチでもオレ、死ぬんだな。
さぁ殺せ。オレは正しい、悔いは無い。強い者が勝つ。弱いのが悪い、負けるのが悪い。力が全てだ、奪われる前に奪え。戦え!
「水門頭だ。」
「人殺し。」
「人で無し。」
獄の前を通る光江の人たち。皆、死んでいる。他から攫っても足りない。だから生き残りを出荷した。
マツの考えは変わらない。騙される方が悪い、捕まる方が悪いんだ。
「子を返せ。」
「娘を返せ。」
「倅を返せ。」
光江は質が悪い。顔の作りや体つきが良いのは皆、とっくに奪われた。残り物が悪いのは当たり前。
恨むなら、整って生まれなかった己を恨め。憎むなら、美しく産まなかった親を憎め。オレは悪くない。
「飢えて死んだ。」
「苦しみながら死んだ。」
「返せ、元に戻せ!」
死ねば終わり。飢えて死んだのも苦しみながら死んだのも全て、役に立たなかったから。オレは何も悪くない。
こんなトコロに押し込められたが、生きている。ヤツら、オレを殺す気なんて無い。フッ、甘いな。隙を見て逃げる。遣り直す生き直す、伸し上る!
水門頭の次は長、長の次は王、王の次は大王。テッペンまで行く、覚えてろ。
「次はテメェだ。」
「一度で済むと思うな。」
「繰り返し苦しめ。」
朝から晩まで休みなく、雨のように降り注ぐ。




