8-200 落とさないでネ
逆さでは無いが吊るされたまま、加津の港まで引き寄せられたマツ。白かった髪が更に白く、薄くなった。
「ロロさま。コレ、どこに。」
何となく近づけたく無くて、持ち上げたまま海上に。
「春、耶万で裁きを受けさせる。それまでは決して死なせず、吹出山の獄に繋ぐ。」
「・・・・・・イヌッコロ。」
「そうだ。頼めるか、ミカ。」
「私に有るのは闇を伸ばして調べたり、伸ばした闇を操る力。犲の願いを叶える事など出来ません。」
吹出山は小ぶりだが、黄泉平坂に繋がっている。山の麓には、石積みの社。その横にポッカリ開いた横穴が、黄泉平坂に繋がっている。
吹出神は山神、坂の守り神でも在らせられる。小さくて柔らかそうな我が儘ボディゆえ、一柱で御出掛け遊ばすと必ず、何かに食われかける。
使わしめは大烏の妖怪、羽葉。
黒狼に食われそうになっていた何かを助けたら、何とビックリ神様でした。泣きつかれ放っておけず、付き添って守るコトに。
オットリした神サマは御考え遊ばした。側に羽葉がいれば、怖い目に遭わずに済むと。で、気が付けば。
何を隠そう、神をパックンしたのはウコである。
社憑きの黒狼として扱き使われ、コホン。キリキリと立ち働くが、ウコは黒狼族の長。どんな時も、群れを率いて行動する。
なぜパックンしたかって? 目の前に、美味しそうな『お肉』が有ったから。で、羽葉に殺されかけた。話し合いの末、仕えるコトに。
裏切れば一族郎党、皆殺しの刑! ブルルッ。
「妖怪の国守には闇の力が有る。使わしめなら皆、知っている。中でも大石、加津の国守には、他とは違う力が有る。なんてコトまで。」
「知られ、ましたか。」
「知られた。」
耶万での大祓、その生き残りである。他と違うのは当たり前。
どのような力を持つのか、分からなくても構わない。社に認められ、国守となったのだ。悪しき妖怪では無い。
「加津社から吹出社へ、話を通す。」
「はい。その間、コレは。」
「申し上げます。もし宜しければ我らが、お預かりします。吹出山で!」
ウコが胸を張り、キュルルン。
国守なのだ、闇を薙ぎ払えないのは当たり前。元、祝なら別だけど。だから断られる、分かってた。
預かれば烏に怯えず突かれず、ノンビリ過ごせるんだ。
良い考えでしょ。お願いだから、『うん』と言って。
我ら黒狼は目立つから、とっても生き難いの。やっと見つけた住みやすい山。追い出されたら加津を囲んで、朝まで遠吠えするゾ。
「ロロさま。託しましょう、嫌な感じがします。」
バレた? 眠れないの、キツイもんネ。
「羽葉の事だ、連れ帰らねば突くだろう。逆恨みで遠吠えされては堪らない。託すか。」
解ってるぅ。
「ハイ、お任せください。」
港に運ぶ前に、マツを縄でキツク縛った。ウコが咥えてポンと投げ、黒狼たちが背で受ける。
エッ、そうやって運ぶの? 落とさないでネ。




