8-199 頼む
「ミカ。アレ、引っ張り上げられるか。」
加津神の使わしめ、ロロが翼で示す。
「舟でしょうか、人でしょうか。」
「人だ。アレを死なせるのは早い、まだ早いのだ。」
良く分からんが、あの辺りだったな。
・・・・・・ん、何だ。イロイロくっ付いてるが、落とせるかな。
「ロロさま、引き上げました。けれど私の力では、他のを取り除けません。」
・・・・・・パチクリ。あ、れは、何だ?
「暫く、そのまま。」
これは! このままではイケナイ。この辺りなら海社、陸なら吹出山。
黄泉平坂へ続く道を進んで、根の国の裁きを受けるのだ。そうすれば隠となり、生まれ育った地へ戻れる。
「イヤダ。」
「ミチヅレニ。」
「ユルセナイ。」
このままでは祓う事になる。まだ間に合う、だから。皆の気持ち、解るなど言えぬ。だが、頼む!
「イヤダ。」
「ユルセナイ。」
「オレタチデ、サバク。」
困った。考えろ、考えろロロ。そうだ! 見覚えが有る。吹出社の使い黒狼だ。
吹出神に噛みついて使わしめ、羽葉に突き殺された。いや、そうなる前に神に救われた? どうだっけ。って、それは良い。
「この男、吹出山の獄に繋ぐ。」
「フキデヤマ。」
「シラナイ。」
「黄泉平坂に繋がっている。この辺りで死んだ者は皆、あの山を通って根の国へ行く。」
・・・・・・。
「この男は殺し過ぎた。コイツに殺された者が、獄の前を通ればどうなる。」
「セメル。」
「キズツケル。」
頼む、気付いてくれ。死ねば皆、根の国へ行かなければイケナイと。このままでは隠にナレナイと。
「マカセヨウ。」
「オシエテホシイ。」
「オレタチモ、ユケルカ。」
海で死んだんだ。だから、海から出られない。どうしよう。
「海の底に社がある。海神は、守り神でも在らせられる。悔い改めれば必ず、黄泉平坂へ御導きくださるハズだ。」
「ワダツカミ。」
「ウミノソコ。」
「ユコウ。」
スッ、スッ、スッ、スッ。少しづつ離れ、社へ。
「後の事は、お任せください。」
海神の使わしめ、甲がニッコリ。
「はい。よろしくお願いします。」
マツを憎み、底まで堕とそうとした数多の魂を、迷わないように導く甲。
使い亀たちもニコニコ、お手伝い。