8-198 とんだ逆恨みだ
犬の妖怪か? 逃げるなら山だろうに、海を目指したのはナゼ。何が起きた。祝に用なら社に集まるハズ。
そうか、加津に入れないのか。
「オレは加津の国守、ミカ。中には入れられないが、話なら聞く。」
黒狼たちがサッと伏せ、奥から大きいのが出て来た。
「我は吹出社の使い黒狼、ウコ。ミカさまに御知らせしたく、参った。」
「加津社では無く、オレに?」
『胡散臭いイヌッコロだな』と思いながら、ギロリ。
強いぞ、この男。他の妖怪とは闇が違う。悪い感じはシナイ。だが、気を抜けば貫かれる。ブスッとな!
「はい。先ごろ執り行われた、耶万神による大祓。生き残った何かが、消えて無くなりました。けれど他の闇が吹出山に、ジワジワと広がりつつ有ります。」
「そうか。で、どうしろと。」
「ミカさまの御力で、薙ぎ払っていただきたく。」
「断る。」
社だろ、なぜ加津社を通さない。『先触れに、使い黒狼を遣った』ってなら解る。けど何だ。オレの力で薙ぎ払えだ?
「そこを何とか、御願いします。この通り。」
黒狼族がペタッと伏せ、ウルウル。
「オレは加津の国守だ。頼るなら、加津社を通せ。」
「クゥゥン。」 ソコヲナントカ。
ん。何だ、あの舟。動きがオカシイ。
「クッ、何だ。全く進まねぇ。」
ガシッ。ガシッ。
キツク縛られたまま、獄に入れられた。悪い事なんて何も。なのにイキナリ。
水も食べ物も貰えず、ギュウギュウ詰め。
「どっ、どうなって。」
ガシッ。ガシカシッ。
痛い、苦しい。誰か助けて。
家に帰りたい、帰りたいよ。このまま死ぬのかな、殺されるのかな。死んだら帰れる、解き放たれる。いっそ殺して。
「この波。いや、オカシイのは海か。」
ガシッ。ガシッ。
舟に積み込まれた。
モノのように重ねられ、息をするのも辛かった。ミシミシ聞こえて、水が。波が高い、漕ぎ出せば沈む。
「アッ。ナッ、何だってんだぁぁ。」
ガシガシッ。ガシッ。
く、る、しい。た、すけ、て。
あぁ、死ぬのか。海って深いんだなぁ。ごめんね、母さん。産んでくれて、ありがとう。ごめんね。育ててくれて、ありがとう。
「アァァァァァ。」
ザッブゥン。ブクブク、ブクブクブク。
マツの足を、多くの死霊が掴む。『死んで堪るか』と掻いて掻いて、海面に上がろうと踠く。
腰に胴に胸にも抱き付かれ、浮かぶコトなく沈むばかり。掻いても掻いても、掻いても掻いても掻いても。
オレ、死ぬのか。オレは何も悪くない。なのに、海で死ぬのか。光江の水門頭が、海で?
認めない。
コイツら、オレに怨みでも有るのか。とんだ逆恨みだ、放せ離れろ。




