8-197 何事もホドホドに
「何だ、なぜ。」
マツがブツブツ言いながら、熊のようにウロウロ。
「ひもじいよぉ。」
光江の子が、ポツリ。
「ア゛、何だって。」
睨みつけられ、ガタガタ。
「売りモンにならねぇクセに!」
蹴り飛ばされ、呻りながら小さくなる。
「サッサと死ね。」
マツは水門頭。思うように集まらず、光江の生き残りを売り払った。残ったのは親無しと、死に損ないダケ。
あれだけ攫ったのに、あれだけチョロマカしたのにナゼ残らない。横取り、横流しもバレた。全て差し押さえられ、戻らない。
「死んだってのは、真か。」
ヤツらのコトだ、取っ捕まってもトットと逃げる。そう思っていたのに、誰も戻らない。
「浅木か。」
人を集めても、浅木に勝てるとは思えない。
「耶万を焚き付けて、向かわせるか。」
新しい王はスイ、気弱な男さ。チョイと突けばコロリと寝返る。使い捨てるには、持って来いの男さ。
隠れ家が見つかり、追い詰められて火を掛ける。敵が怯んだ隙に飛び出し、ひたすら逃げた。逃げて逃げて、やっと辿り着いた光江はボロボロ。
悦のシュウ、采のユリ、大野のカズ、安のミエ。頼みの綱は誰一人、戻らない。見込みがあるのは大野のガガだが、どこで何をしているのか。
「アァァ! 何も変わらない。」
同じコトばかり考えてるじゃナイか。シッカリしろ、オレ。
耶万は食べ物の受け取りを、光江から加津に変えた。
そうだ、加津なら海から行ける。腰麻にも大石にも、バケモノが居た。加津には居ない。
居たら万十や氛冶の大臣が、加津なんてチッポケな国に。耶万にアッサリ敗れた、加津の生き残りナンカに任せるモンか。だから居ない、居るワケが無い。
「風が吹いてきたゼ、オレサマによぉ。」
グフフ。
「フン、フフンッ。」
イイが楽しそうに、機を織っている。
手織機の扱いを婆さまから習い、気に入ったイイに強請られたのだ。『お家にコレ、作って』と。
父親という生き物は、どうにも娘に弱い。可愛く『お願い』されればイチコロ。器用にパパッと、竪機を作り上げた。
機を織るイイの側で、ミカが縄を綯う。
筵打ちは暫く、お休み。ミカが編む筵は強く、使い易い。そうそう草臥れナイので、少し有れば良い。
ミカが綯った縄も強い。釣りに狩り、暮らしにも欠かせない品だ。用いドコロが広いので、多いと助かる。
「ん。」
何だ、この感じ。イヌ、いや犲の群れ。なぜ山を出た。吹出山ってトコか。真っ直ぐコッチへ向かっている。
「イイ、少し出てくる。」
・・・・・・シュン。
「直ぐに戻るよ。」
優しく撫でられ、ニッコリ。
「はい、お家に居ます。行ってらっしゃい。」