4-25 オレは、間違えたのか?
「た、助け、て。く、だ、さい。」
早稲の、村の外れ。そこに、村がある。村と呼べるのか、わからない。それくらい、小さな村。みんな、他の村から逃げて来た。早稲の村に逃げたから、奪われた。そんな人たち。助け合い、暮らしていた。
衣はボロボロ、食べものは、あまりない。だから、川で捕ったり、森で獲った。
タツは、早稲の村で暮らしたかった。外れで暮らすなんて、嫌だった。
早稲の村は、豊かだ。早稲の村人は、ボロなんて着ない。飢え死ぬこともない。凍え死ぬこともない。
早稲の長に取り入れば、そう思った。だから、言われるまま。気に入られようとして。
シゲたちが言っていた。
「考えろ。」
「頭を使え。」
「まわりを、よく見ろ。」
考えてる、頭だって使ってる。まわり? 見たさ。見ていた、よ、な。
あ、頭が、い、痛い。オレは、オカシイ。そうだ、だから。だから、悪くない。
「こ、来ないで! た、タツさん、み、たいに、なっ、なり、たく、な、ないっ。」
震えながら、言っていた。オレは、間違えたのか?
ノリ、カズ。来てくれなかった。オレを、助けてくれなかった。シゲも。助けてくれない。ずっと、そばにいた。
いた? オレは、オレのそばには、誰もいない。誰も、誰も来なかった。イヌ。犬がいた。そうだ、森で拾った。仔犬だったから、ノリに。
「拾ったのはタツ、お前だ。飼え! 気を配って、手をかけろ。」
アイツ、犬のことになると。
「イヌ。」
オレが死んだら、どうなるんだろう。ノリが飼うか。犬、好きだし。
「しくじった、のか。取り・・・・・・違え、た・・・・・・の、か。」
シゲの言うこと、聞いとけば。
「おれ、は。」
みんな、と、もう。
「会え、ない、の、か。」
オレ、一人。
「母さん。」
どこ?
「父さん。」
どこ?
「オレ。」
悪くないよ。なのに。
「ジッチャ、バッチャ。」
オレ、悪くないよ、ね。
「オンジ。」
オレ、ここだよ。
「助け、に、来て、よ。」
一人は、嫌だよ。
早稲の長に言われた時、嬉しかった。やっと、東山へ行ける。帰れるんだって。でも、いなかった。
ジッチャとバッチャは、死んでた。まあ、年だし。でも、オンジは、いた。長になってた。
なのに、それなのに。
「タツ? 長の、甥?」
会いに行った。会いたかった。
「タツは死んだ。帰れ。」
会って、くれなかった。オレ、生きてたのに。
「早稲? 何を言い出すかと思えば。」
嘘じゃない。オレは早稲にいた。
「帰れ。」
会ってくれなかった。
「タツ、オレの手足になれ! オレのために働け。」
早稲の長が言った。
「会ってくれない? 東山の長より、早稲の長だろう。」
それも、そうか。あの時はそう、思ったんだ。
「た、すけ、て。」
誰でもいいから。
「黙れ、罪人。」
オレ、悪くない。
「シゲ、なん、で。」
いるんだろう? まだ。
「シゲ? ああ、帰ったよ。」
帰った?
「お、オレは、悪く、ない。ヒッ。」




