8-192 思い掛けない出来事
嫌呂も悪鬼も、ちゃんと解っている。事を上手く運ぶには『贈り物』が役に立つと。
今は冬。亀も蛇も蜥蜴も、穴の中でスヤスヤ。
シンシンと降り積もった雪で、辺りは真っ白。寒い外へ出るワケがナイ。困った。贈るなら干物より、プリプリが良いのに。
・・・・・・魚も、プリプリだよね。
海や川より、凍った湖だ。氷に穴を開け、釣るゾ。糸の先にキラキラ光る貝を付けて、ピョコピョコするんだ。
一山にある雫湖では、鰙が良く釣れる。妖怪の間では知られた話。
寒いので行った事は無いが、この冬は休まず働いている。この機を逃せば次は無い。かもしれない。
子蜘蛛に贈るのだ、一匹でも釣れれば良い。
細い木の枝をポキッと折り、釣り糸を括り付ける。隠の世で手に入れた物だ、強い!
氷を叩いて割れば、魚が驚いて逃げる。他の妖怪なら、それでも叩き割るだろう。しかし、コンコンには狐火が有る。割らずに融かせる。
的を絞って、トリャァ!
静かに糸を垂らし、キラキラで引き寄せ、餌が跳ねているように見せる。『ピッチピチだよ、美味しいヨ』
針には何も、付けてナイけどネ。
魚にも使えた狐の術。いっぱい釣れた! わぁい、嬉しいな。
プリップリの魚を三匹選んで、笹の葉でソッと包む。残りは仲良く、半分こ。
思い掛けない出来事に、子蜘蛛たち大喜び。
冬にプリプリした魚を食べられるなんて、夢のよう。蓄えておいた虫もイイけど、食べたくなるんだよね。狐さん、ありがとう。
プランプランしていたのに幸せそうだったのは、お腹も心も満たされていたから。
「大貝神。鎮の西国から耶万に齎された、闇食らいの剣。覚えていらっしゃいますか?」
「死んだ祝と憑き蛇が、闇を蓄えるために作った大穴に・・・・・・埋めて隠したアレか。」
「はい。その剣が脈打ちました。」
エッ!
あれ? アンリエヌの魔物が死んだ采に、蜘蛛の子を遣ったの。大貝神の仰せじゃ無かったんだ。
「して、その剣。今は。」
「闇を求めるも、動けぬようで。」
傷つけぬようソッと掘り、調べました。
埋めた時は繭のようでしたが萎み、細っておりました。もう幾年かは持つでしょう。けれど急ぎ清め、包み直さねば。
「解った。行くぞ、土。」
「ハイ。」
もし、もしだ。アレが闇を纏い、耶万から。そんなコトになったら・・・・・・。統べる地は閉ざした、外へ漏れる事は無い。けれど、そうなれば。
ゾッ、ゾワゾワッ。
寒いトカ雪が降ったトカ、積もったのが凍るまでトカ、ごちゃごちゃ言って居られぬわ!
「良く知らせてくれた、ありがとう。和山社へは、私から伝えよう。」
「はい。」
サッと平伏す、嫌呂と悪鬼。
ここは隠の世、一山。鳶神の御前です。闇食らいの剣が清め、包み直されたのを見届けてから参りました。
信じてますよ。けれど、どんなに小さな事でも何かあれば、隠の世に直ぐ知らせる『決まり』なので。