8-190 若いサンタさん
山の中の雪道を橇でスイスイ。橇はミカ、帆はクベの闇で出来ている。ユキの力か、はたまた驚いたのか。しなやかに木が仰け反っていた。
「ユキさん。食べ物、足りてるかい?」
「エッ。」
ミカに問われ、驚く。
「腰麻で思ったんだ。『皆、痩せてるな』と。」
妖怪になって初めて、腰麻に行った。昔はソコソコ賑やかで豊かだったのに、見る影も無い。そう思った。
人が少ないのは、連れ出されたから。田畑や家がボロボロなのは、耶万に荒らされたから。大人が痩せてるのは、子に食わせるから。なら、子が痩せてるのは?
耶万から届いたハズだ。アチコチから運ばれ、届けられた食べ物が。なのに無い。なぜ無い、なぜ飢える。
売っ払ったから? 違う。衣も家もボロボロ。食い尽くしたから? 違う。人だけじゃナイ、犬の骨も浮き出ていた。となると、考えられるのは一つ。
アレだ。
「国守だったアキだっけ? 死んだんだ。冬だから、頼るしか無いよ。」
「そうですね。」
思いつめた表情をして、ユキがポツリと呟いた。
耶万から多く運ばれた食べ物、バクバク食らったのか。もしかして種籾まで? イロイロ刈り取れたから、一袋なら渡せる。
イイは狩りより釣りが好きだし、何とか。
「悪いのは消えたんだ。社を通して耶万に頼むと良い。大袋一つなら、加津から届けるよ。」
ニコッ。
「大石からも一袋、届けます。」
ニコッ。
「ありがとうございます。お願いします。」
ユキが泣きながら、頭を下げた。
真っ直ぐ戻らず、大石に寄り道。橇に一袋ポンと乗せて、腰麻へ。
戻ったユキに駆け寄り皆、泣いて喜んだ。扱いに困っていたアキを討ち平らげ、生きて戻ってくれたのだから。
『良かったら皆さんで』と、クベが大袋を手渡した。ズッシリ重い袋を抱え長、号泣。アキを捕らえユキを戻し、食べ物まで分けてくれたのだ。
妖怪の国守の株、急上昇。
クベとミカは別れを告げ、一っ飛び。
暫くするとミカが、二つの袋を持って戻る。大袋には米。小袋には干し肉と、干した魚や貝が入っていた。
腰麻は海から離れている。川を下れば海へ出るが、年寄りが多い。魚も貝も稀にしか口に出来ない。となれば・・・・・・大喜び!
和なら恵比寿さま。洋なら、サンタ・クロースだネ。
加津に戻ったミカは、家に戻らず社へ。見聞きし、感じた全てを伝えるために。
あの禍禍しさ。大祓を耐えるだけの何かを、隠し持っていたのだろう。
あれだけ離れても感じた。それだけ強い闇が、采で渦巻いていたのだ。消えて無くなったが、また。そう考えると怖くて堪らない。
「ミカさん!」
イイが嬉しそうに駆けて来る。ミカは屈んで、両の手を広げた。
「おかえりなさい。」
胸に飛び込んできたイイを抱きしめ、ニッコリ。
「ただいま。」
みんなの幸せを守るために、努めなきゃな。