8-189 炎の中で
ボコッ、ボコボコ。
『弾ける』
ミシッ、ミシミシ。
『裂ける』
ピィィン。
『死ぬの』
私には重すぎた、欲張りすぎた。やっと手に入れた、化け王に対抗できる闇。あの時は思った。勝てる、勝ったと。
諜報員は裏で生きるモノ。表に出てはイケナイのに出た。出てしまった。
思えば、あの女。
相手を陥れてはイケマセン。言われて嫌な事は、言ってはイケマセン。されて嫌な事は、してはイケマセン。誰だったか、うんざりするホド叩きつけられた。
ハッ、これ私の記憶?
違うわ。餌の記憶に引っ張られるなんて、落ちたモノね。呆れるわ。シッカリしなさい、それでも諜報員なの。
あぁあ。この闇なかなかイケルけど、危ないわね。使命を全うするには何が必要。何を選んで、何を捨てる。迷って居る暇なんて無い。
・・・・・・私、何のために生まれてきたのかしら。愛されたかった。強く抱きしめられて、温もりを感じながら眠るの。
道具として育てられ、学んだわ。戦うためのアレコレ、殺すためのアレコレ、欺くためのアレコレ、騙すためのアレコレ、操るためのアレコレ。
操る。誰を、どのように。違うわ。私は誰に、何を命じられた。ここに来たのはナゼ。こんな姿になったのに、なぜ誰も来ないの。外務卿はドコ。
捨てられるのね。使い捨てられるのよ、私たち。ねぇマリィ。マリィ、私を一人にしないで。お願いだから側にいて。一人で死ぬなんて嫌、耐えられない。
怖いコワイこわい。震えが止まらない。お母さん、お父さん。居たっけ? 私に身内なんて。捨て子、拾い子。もしかして、買ってきたトカ?
フッ、フフフ。あはは、愚かよねぇ。ずっと動く人形として利用されてきた。才は無いけど、似た力を生まれ持ったから、殺されず生き残った。
卿、なぜ私だったの。なぜマリィだったの。私たち、ココで死ぬのよ。最期の願いくらい叶えてよ。叶えてよぉぉ!
プックゥゥ。
『さよなら』
ミシミシミシィ。
『ありがとう』
キィィン。・・・・・・ボッ。
「ハハッ、ハハハ、ハハハハ、ハハハハハァ。」
紅蓮の炎に包まれて、アンナとマリィは抱き合い、笑い続ける。その声は、泣いているようにも聞こえた。
親に愛された記憶も、撫でられた記憶も、優しく抱きしめられた記憶も持たず、苦しみながら死んでゆく。
人は皆、愛されるために生まれて来た。なのに、孤児や遺児には許されないのか。
親の顔も、声も忘れた。忘れなければ生きられなかった。縋り続ければ、壊れていただろう。求め続ければ、狂っていただろう。
「ハハッ、ハハハ、ハハハハ。」
悪いのは誰。子を守らず、捨て駒として教育した大人だ。
感情を捨て、命令を遂行する人形。男も女も関係なく、使えるモノは何でも使う。病死した仲間。治療してもらえず、死んだ仲間も。
「ハハッ、ハハハ。」
叫ぶ枯れ木から、動かない炭に。プスプスと灰になり、赤い火の粉と踊りながら、空へ。