8-188 何と愚かな
安の外れの分かれ道。南へ進めば安井、北へ進めば采に出る。北から風に乗り、運ばれてきた。
「禍禍しいな。大祓に耐えたが、深く傷ついている。」
闇を六つに伸ばし、シュルシュル戻してから言った。
「ミカさん、オレ良く分かりません。ケドこの感じ、気持ちが悪いです。」
「これはな、クベ。腐った魂の臭いだ。」
「魂って、腐るんですか?」
外に出さず傷つけず、守り続ければ腐らない。鷲掴みされたり、引き抜かれれば腐る。一度、腐った魂は決して、元には戻らない。
命と魂は違うが、似ている。心の臓を掴んだり、引き抜けば死ぬだろう? 一度、死んだモノが息を吹き返す。なんてコトは無い。人でも獣でも同じさ。
「ってコトは一度、死んだ妖怪とかの。」
「だと思う。人なら、こんなに臭わない。」
「・・・・・・確かに。」
クベもミカも、骸を見慣れている。戦場に残された骸の臭いを、嫌というホド嗅いだ。鳥に目を啄まれ、ガランとした骸の顔。獣に食い散らかされた曝れ頭。
「どうした。」
「あんな思い、させたくない。」
「あぁ、だから守るんだ。オレたちの手で。」
「はい。」
祝の力を持つ人は、男でも女でも守られる。だから祝人も祝女も、戦場を知らない。
ユキは思った。二妖とも若いのに、言の葉に出来ないような事を嫌というホド、見聞きしたのだろうと。
「力を失ったか奪われた何かが、呻いている。」
「近づかない方が良いですね。」
「クベさん、ココからでも投げ込めますか。」
「そうだなぁ。オレには難しいケド、ミカさんなら。」
「ヨシ、任せとけ。」
包みから出されたアキは、直ぐに逃げ出す。走って躓き、転びそうに。何とか立て直し走り出すも、黒い壁にゴンと強く打ち当たった。
クラクラしながら右へ。と直ぐ、帯のようなモノにグルグル巻きにされ、打ん投げられる。
「ギャァァァァァ。」
クルクル回りながら空を飛ぶ。
「グハッ。」
采に落ちた。
・・・・・・ココ、どこ? えっ、来ないで。
「アンナさま。」
「えぇ、マリィ。」
上質で濃厚な闇の力を感じる。コレを取り込めば、きっと。そんなに怯えないで。痛くしないから。
「イヤァァ。」
バリッ、バリバリッ。ゴックン。
「ハァァ。力が漲る。」
・・・・・・ボコッ。ボコ、ボコボコボコ。
「ヴッ。」
アキを吸収したソレが、膨れてピンと出っ張った。
『何よ、アタシは悪くない』『四姫の言う事は聞くモノよ』『何で耐えなきゃイケナイの』『死にたくない』『アタシを守って死ね』『アタシはね、望まれて国守になったの』『助けなさいよ』『イヤ嫌イヤ!』