8-187 俯かず、前を
「コレが、腰麻の国守?」
大石の国守、クベ。パチクリ。
「お願い、出来ますか。」
妖怪の祝、ユキ、ニッコリ。
「は、い。」
クベは闇を広げ、腰麻の国守だったアキを包んだ。直ぐに圧し縮められ、指の一本も動かせない。ギュッと締め付けられ、モゴモゴ動く。
口に嚙ませようと思ったが、諦めた。セイウチのような牙と、象のような牙。歯は鮫のように鋭く、三列に並んでいたから。
闇が強ければ強いほど、妖怪の角は伸びる。アキの角は短いが、サイのように太い。それが四本。どんな力を秘めているのか分からないが、とてもコワイ。
「クベ。」
「ミカさん。来てくれたんですね。」
耶万に滅ぼされた六つの国。采、安井、井上、久本、大野、安を祓い清めるため、耶万神が使わしめたちと、大祓の儀を始めなさった。
耶万から溢れた闇ほど広がらず、困るホドでは。そう思っていたが甘かった。川上からネットリした闇が、舐めるようにドッバァ。
「イイがな。『きっと困ってるから、行ってあげて』って。」
ミカが照れながら、ニコリ。
人と妖怪の子を取り上げ、育てている。初めて聞いた時は驚いた。腰麻でも生まれたから。
あんなのを引き取って、育てているのか。人を襲わないのか、食らわないのか。気になって気になって、田鶴に尋ねた。すると『人の子と同じように、育てられている』と。
信じられなかった。悦でも光江でも他でも、多くの命が奪われた。なのにナゼ。
「腰麻で一人、見つかったそうですね。」
ミカに問われ、泣きそうになる。
「はい。八つの子が。」
ユキが唇を噛んだ。
人と妖怪の合いの子。その扱いが、社を通して知らされた。同じようにすれば人と暮せるハズ。諦めず、出来る限りの事をしよう。
腰麻の子が産むんだ。殺さずに済むなら、それが良い。幾ら人の子では無いからといって、奪うのは気が引ける。加津に出来て、腰麻に出来ないワケが無い。
「悪いのは妖怪です。私たちも妖怪ですが、その子を死なさず、しっかり休ませる事が出来る。俯かず、前を向いてください。」
ミカの言う通り。逃げずに向き合い、支えなければ。
「はい。」
ジタバタ、ジタバタ。ジタバタバタ。
「こんなに小さくなっても、動けるんだな。」
闇の包みをツンツン。
「大きな牙が、四つも生えてました。」
興奮しながら、クベ。
「そりゃスゴイ。闇が漏れ出す前に、行くか。」
「エッ。」
「中で、渦巻いてるゾ。」
ジィィ。・・・・・・ハッ!
「行くか。」
「はい。」
三妖でポイしに、行ってきます。




