8-186 無駄ムダ
「カー様、おはようございます。」
「おはよう、ブラン。」
霧雲山の統べる地が穏やかなら、それで良い。少し前まで、そう思っていた。いや止そう。大王が許しなく、差し向けたのだ。
アレの罪は重い。器から溢れた瞬間、思い知るだろう。炎の中で叫びながら、消滅するのだから。
「申し上げます。」
「おはよう、ネージュ。フェンなら違うよ。」
・・・・・・パチクリ。
「カー様。あの男、いえ。」
「新たな一族はね、許しなく出国すると死ぬんだ。」
日光に当たれば焼け死ぬ。血を吸う事で命を繋ぐ。実は、それだけでは無い。
はじまりの一族から祝福を受ければ、健やかに育つナド大噓。賜るのは幸福や恵みでは無く、呪いだ。
「国務は全て、アンリエヌ国王の城で行われる。仕事でも観光でも、出国手続きは必須。旅券の有効期限は一月。」
「では、加護が及ぶのも。」
「そう、一月。」
王族なら知っている。旅券は身分・国籍を証明するダケでは無く、加護が付加されていると。なのにエド大王は、フェンを出国させた。
己に才が無い事を忘れ、思い違いをしたのだ。王城で発行された旅券であれば、有効であると。大王と化け王は同等であると。
「新たな一族が『新たな疫病』だの『伝染病』だのと、大王城内にて騒いで居ります。」
「捨て置け。アレが苦しみながら死んだのは、当たり前の事。そのうち気付く。」
アンリエヌへの入国審査は世界一、厳しい。検疫所を通らなければ即、死刑。裁判を受ける事なく収監され、三日以内に。
因みに不法滞在者は即、強制送還。前科者が入国を試みれば、問答無用で死刑。国際問題にならないのは処罰・処刑対象を、周知徹底しているから。
「この国に、原因不明の病など存在しない。死病でも疫病でも、罹患者は入国させない。いや出来ない。」
「はい。」
「なぜ、あのような。」
「いきなり破裂するなど、先例が無い。」
「血も骨も残らぬとは。」
「アンナに伝えよ。一刻も早く、エンを連れ戻せと。」
・・・・・・。
アンナにもマリィにも連絡が付かない事。二人が妖怪に食われた事も、四人はスッカリ忘れていた。
使いを出そうにも、どこに居るのか分からない。フェンの弟が外務卿に就くだろうが、同じコト。
「アンナざま。ごぶじ、でずが。」
血を吐きながら、マリィ。
「なんどが、ね。」
目と耳から血を流し、アンナ。
油断した。大祓なんて、大した事では無い。そう思っていた。とんでもない! 何だ、この力は。たっぷり蓄えた闇が、潮が引くようにサァっと。
まぁ良い。生き残ったのだから、また始めよう。生きてさえすれば、何とかなる。