1-7 約束
ルーには不老の才があった。才には二種類ある。継ぐものと、そうでないもの。ルーの才は、後者だった。
ルーの体は赤子のまま、成長しなかった。不老の才だと判明するまで、二年かかった。わかったところで、何も変わらない。赤子のまま、心だけが成熟する。
禁忌の才なんて、求めたわけじゃない。押し付けられたもの。なのに、見下す。何の役にも立たないと。
同じ悩みを抱えながら、それでも生きようとする姉弟は、支えあって生きていた。だから、化け王の城へ送ると言われ、喜んだ。心の底から感謝した。やっと解放される。
「ありがとうございます。父上、兄上。」
怪訝な顔をしていた。仕方ない。父兄には、理解できないのだ。虐げられる者の痛みが、苦しみが。
ずっとニコニコしている。幽閉されるだけ。処刑されるわけではない。丁重に扱う。だから、なのだろうか。王族専用の牢に入れられ、狂喜乱舞。化け王の城へ送られたのに。
「荷が届いている。必要な物があれば、可能な限り、取り寄せる。」
「ありがとうございます。化け王。」
第一側妃に虐げられていた。ある意味、同士だ。それに、もしかすると。なれるかもしれない。ジル王とジル王子のように。
「ルー、読心の才を得たよ。」
約束は守るためにある。覚えてないかもしれないけど、約束したんだ。
「アアァ。」
目をまん丸くしている。驚かせて、ごめん。
「心の声を聞かせて。なんでもいいから。」
「姉さん、なにか言ってみて。」
すごい、すごいよ、カー。読心の才って、誰が持っていたんだろう。まあ、いいや。
「急に言われても。あっ、いい天気ですね。」
「そうだね。よく晴れてるね。」
「天気の話かい。」
「そう。『いい天気ですね』って。」
「うん。いい天気だね。」
「エン、手をつなごう。」
「いいよ。」
「外にはどんな花が咲いているの?赤いの、青いの、黄色いの。」
「聞こえた!姉さんの声だ。」
支配の才を持つ大王は、好戦的だ。第一王子と、正妃から生まれた王子、王女を側におき、相手かまわず戦を仕掛ける。
回復、強要、破壊、反射。実戦に強い才は活かされず、戦場に放り込まれるのは、立場の弱い者ばかり。
つらくて、つらくて。逃げ出したくても、奪って。奪って、奪いつづける。身も心もボロボロ。折れそうな心を、ルーは癒してくれていた。
「不老なんて才、とっとと収集者に奪わせればいいのに。」
ルーは、不老の才で生きているんだ。奪えるか!
「宝の持ち腐れよねぇ。」
砂嚢がわりにしやがって。
毎日、毎日。歌うように暴言を吐く。オマエたち、どうしたいんだ。惜しくない命なら、散らせろよ。俺たちのかわりに、戦場へ行け。
「ねぇ、カー。私の才、もらって。」
叫びそうになった。やめてくれと。泣きそうになった。言わないでくれと。心の底に押し込めた。なのに、伝わってしまった。
「ごめん。」
微笑んでいる。きれいな瞳で、見つめてくれる。荒んで、歪んで、壊れた私の心を、やさしく包んでくれる。
「他の誰かじゃなくて、カーに継いでもらいたい。」
わかってる。本当は、それが一番だと。それでも、そしたら、もう、会えないじゃないか。
「わかった。」
守りたくない、約束。
きれいな月の光に照らされて、大好きな従姉が旅立った。