8-183 妖怪を捨てるなら
「あぁあぁ、何なの。何だってのぉ。」
イライラ。イラいらイラいらイラ。
「アキ、抑えて。腰麻は広いけど、人が少ないの。」
娘を宥める母。
「アタシはね、望まれて国守になったの。コレッポッチじゃ全く足りない。」
腹ペコなのは皆、同じ。耶万から冬を越せるだけ、食べ物が届いた。けれどアキがバクバク食らい、スッカラカン。
アキは妖怪の国守。物を食べなくても生きられるのに、食べ続けた。腹ではなく、心を満たすため。
昔から比べられた。出来の良い兄姉、弟と。皆、死んだのに今も。いや昔よりも比べられ、ブチ切れた。耐えられず。
妖怪は闇を取り込むことで、健やかに生きられる。人と妖怪の合いの子は人では無い。けれど、同じなのだ。
飲まなければ渇き、食べなければ飢え、寒ければ凍え死ぬ。
だから妖怪の国守は、引き取った子を育てるために働く。
田や畑に手を入れ、食べ物を作る。木を切り割って、乾かせる。狩りに釣り、木の実採りなど。生きる術をシッカリ身につけ、教えられるようにする。
アキは国守なのに、その全てから逃げた。
「あぁあぁあぁ。腹減った、飯食わせ。」
「アキ! あなたは姫なのよ。」
「だから?」
飢えた獣のような目で、母を睨みつける。
キュル、キュルルゥ。・・・・・・ゴクリ。ポタッ、ポタポタポタ。ニタァと笑って、ガブリ。
「アァァッ。」
ガブッ、ジュルジュル。
「誰かぁ!」
バリッ、モグモグ。ゴックン。
「った、す」
ボキッ、モグモグ。
「・・・・・・ぇぇ。」
モグモグ、ゴックン。足りない。もっと欲しい。
「ギャァァ!」
聞いた事の無い、物凄い声が聞こえた。慌てて飛び出し、見開く。家の前で妖怪の祝、ユキに押さえつけられているソレに皆、見覚えがあったから。
「長、恐ろしい事が起きました。国守が、四姫アキが側女を。母を食らい尽くしました。」
「そば、め。」
何だ、何が起きた。落ち着け。考えろ、長だろう。そうだ、皆を逃がさなければ。
「長、落ち着いて聞いてください。今から采に、アキを捨ててきます。」
「采って、あの?」
「はい。耶万に滅ぼされた、あの采です。悪しき妖怪や、海を越えて来たバケモノが巣くっています。」
「そのような所に捨てて、障り無いのですか。」
「見ての通り、鋭い角と牙を持つ妖怪です。私一妖では殺せないのです。」
アキを捕らえたユキは、腰麻社へ闇を伸ばした。
腰麻神の使わしめ、田鶴に気付いてもらうため。大石にいる妖怪の国守を、急いで呼んで来てもらうために。
どんなに重くても遠くても、クベになら運ぶ事が出来る。ユキの力は二つ。闇を鞭のように扱い、切り刻む力。そして、癒しの力。
どちらも捕らえたまま運ぶのには、全く向かない。
それに大石は会岐、千砂、加津の国守と結んでいる。きっと力を合わせて、乗り越えようとするだろう。