8-179 気になる、知りたい、確かめたい
安や光江、悦など。戦に敗れて滅ぼされ、耶万に組み込まれた国は多い。その生き残りが皆、悪いワケでは無い。
騙したり唆したり、奪ったりする悪いのは全て、采に放り込まれて死んだ。生きているのは二人。
大野のガガは片付くまで、浅木に留め置かれる。
アコが耶万に戻り、社の司になるのが先か。悪いのに罹って死ぬのが先か。何れにせよ、それまでは垂れ流し。
光江のマツは、隠れ家に居る。
残りを放り込み、舟を出そうとして襲われた。光江の生き残りと妖怪に。命からがら逃げ帰り、ガタガタ。黒かった髪が、一夜で真っ白に。
救い出された人の中に、腰麻の子が居た。
腹が出ているのに骨が浮き出た、ギョロギョロした男の子。頬が痩け、ヒョロヒョロした女の子。母と死に別れ、死んだ魚のような目をした幼子。
他も、似たようなもの。
知らせを受けた妖怪の祝、ユキには救える、癒せる。心の臓が動いている限り。失った光の力には及ばないが、新たな力を授かったから。
急ぎ駆け付け、力を揮う。
一人でも多く助けたい、一つでも多くの命を。そのために私は死んで、妖怪に生まれ変わったんだ!
「戻って直ぐに悪いが、少し話せるか。」
大石神の使わしめ、バウ。
「はい。ムゥ、戻るまで待てるな。」
クベに撫でられ、ニコリ。
「はい。いってらっしゃい。」
妖怪の祝ユキから、腰麻社を通して知らされた。光江の水門頭マツが一人でアチコチ出向き、アレコレしていると。
少し前、大石にも。
獣が畑を荒らすので、ムゥを連れて森に入ったクベ。狩り人の兄弟に見えたらしい。ムゥが攫われかけた。
その時、クベの闇の力が目覚める。頭から角が二本。糸切り歯が伸び、鋭い牙に。顔には赤い筋が入り、怒りがメラメラと燃え上がった。
締め上げると『攫いに来た』だの『死にたくない』だの。クベの姿が変わった事でユキを思い出したのか。叫んでチビって、転がるように逃げた。
姿が変わっている事に気付いたクベは、ムゥを連れて出たのを思い出し、闇を引っ込めた。大の男が逃げたのだ。子なら、どうなる。
恐る恐る闇の包みを開くと、ムゥがスヤスヤ眠っていた。
「・・・・・・ハァ。あの時、片付けとけば。」
「言うなクベ。逃がして良かったのだ、アレは。」
「バウさま、なぜですか。」
大蛇神の使い狐、嫌呂と悪鬼は決めた。いつでも殺せるのだから、置いておこうと。
春になれば良那から、継ぐ子アコが戻る。耶万の社の司として、戻ってくるのだ。初めての裁きに持って来い!
アコの母は、蛇谷の祝。攫って大王に差し出したのは、水手だったスイ。まだ証は挙がらないが、叩けば埃が出るに違い無い。
水門頭だ、水手と組んだハズ。
「では、春まで生かすと。」
「そうだ。マツが近づいたら姿を変え、脅かせ。」
「解りました。」
今のところ出るのはシシのみ。熊が出たら、ムゥが喜んで狩るだろう。森を調べたが、おかしい事は何も。なのに出た。
獣は秋にタップリ蓄え、冬は籠るハズなのに。
采に集まった妖怪が、獣を騒がせているのか。海を越えて来たバケモノが、何かを企んでいるのか。気になる知りたい、確かめたい。でも、どうすれば。