8-178 そうかもしれない
「カツ、見捨てないで。死んでも早稲に残って。お願いします。」
「なんだイキナリ。落ち着けヌエ、どうした。」
「カツ。」
「ん?」
「これまでイロイロ、ごめんなさい。」
長だった父も、跡継ぎだったジン兄も、早稲の皆もだ。逃げ込んできた人に酷い事をした。『早稲の他所の』人なんて言って、村外れに追いやって。
「謝って許されるとは思わない。けど、ごめんなさい。」
シン兄が出た時、思った。『裏切り者』って。
オレたちが見捨てられたの、当たり前だよ。母さんが死んだんだ。ずっと耐えてきたシン兄が、早稲に残るワケないよ。
ゲンもシゲも、その気になれば。なのに逃げなかった。妹を質に取られて、逆らえなかったんだ。なのにオレたち寄ってたかって、言えないような酷い事を。
「今さら何だと思うだろうが、ごめんなさい。」
「ヒトまで何だよ。」
三鶴と玉置に攻められ、ボロボロになった早稲が持ち直したのはカツが居たから。シゲたちを追って出ようと思えば出られたのに、早稲に残ってくれたから。
それだけじゃナイ。妹が姪か分からないが、セイを捨てずに契ってくれた。
『放り込んどいて何だ』と思うだろう。けどオレたち、引き留めたかったんだ。狩り人、一人も居なかったから。
「そうかい。まっ、知ってたケド。」
「お、こら、ない、のか?」
「怒らねぇよ。」
オレはな、残りたくて残ったんだ。早稲は好きになれない。けど、他よりマシだぜ。何て言うか、行くトコねぇし。
シゲんトコ行っても、出てたと思う。釜戸の裁き、受けたし。
ボロッボロになった早稲を見て、オレ思ったんだ。『遣り直すのもイイかな』って。みんな出たんだ。狩りでオレに勝てるヤツ、居ねぇよ。
「楽しそうね、何の話?」
「おかえり、セイ。」
ユユは遊び疲れてグッスリ、他の子も夢の中。寝る子は育つ!
「そう、良かった。」
「アッサリしてるなぁ。」
「だってヌエ兄さん、人攫いが居なくなったのよ。思いっきり雪遊び、させられるじゃない?」
「早稲の子を攫おうなんてヤツ、居ないだろう。」
「人ってのはね、集まるとオカシクなるの。」
・・・・・・?
「似たようなのが集まる。似たようなのしか受け入れない。で、一人でもオカシイ事すれば、挙って倣う。それが人。」
三人の男が見合い、溜息を吐く。『そうかもしれない』と思ってしまった。
「まぁ、片付いて良かった。で、ナミは。」
明るい声で、ヒト。
「お墓に手を合わせて泣いてた。『春が来たら、谷西へ戻れるから』って言ったら、『はい』って。」
泣きそうな顔をして、笑った。
男が怖いのだろう、近づくと固まる。だから女に任せた。オレたちには、見守るコトしか出来ない。