8-176 感謝を捧げる
日が暮れる少し前、谷西の村に到着。
隠たちは涙する。生きている、生きていた。妻が、子が、思い人が。
「さぁ着いた。」
クベに下ろしてもらい、ゆっくり村へ。
「ありがとうございました。」
谷西の長が、ミカの手を取りブンブン。
顔は戻したが、牙も角もそのまま。闇の力を操るのに、まだ慣れて無いから。引っ込めると上手く扱えなくて。
怖がられると思った。なのに迷わず、手を。ホッとしたミカは思い切って、長に伝える事にした。
「安井に残っていた家。使えそうだから、バラバラにして持って来ました。もし良かったら、使ってください。」
安井。滅ぶ前から、良い話を全く聞かない。耶万を裏切って采、安と組んだ。纏めて耶万に滅ぼされ、死に絶えたと聞く。
「はじめまして。大石のムゥです。」
ペコリ。
「はじめまして。谷西の村長、イワです。」
ニコリ。
「おうち、使ってください。モヤモヤありません。」
モヤモヤが何なのか、長にはサッパリ解らない。けれど、悪いモノなのは確か。それが憑いて無いのだから、使っても障りない。そう考えた。
「確かに、悪いモノは憑いて居りません。」
谷西の社の司、控えめに登場。
「何があれば、私が清めます。」
祝も控えめ。
谷西の社の司には、残念ながら清めの力は無い。けれど、悪しきモノが見える。祝には清めの力が有る。
「皆さま、ありがとうございます。」
長が頭を下げた。
「そうか、良かった。組み立てよう。」
ミカが闇を伸ばし、家が建っていた所にポンポン置いた。焼け跡をサッサと片づけ、組み上げる。
一軒、また一軒。アッという間に完成。谷西の村人、揃ってポカン。・・・・・・スゴイ。
「こんなモンかな。」
ウンウン。
「スゴイ! ね、クベさん。」
「ミカさん、スゴイ。」
ハッ! しまった、遣り過ぎたか。
「ありがとうございます。」
・・・・・・良かった。皆、喜んでくれた。
「ミカさん。助けていただき、ありがとうございました。」
バケモノの姿とは、良く言ったもの。確かに恐ろしい。子が見たら泣くだろう。そんな姿を晒してまで、谷西の皆を助けてくれた。救ってくれた。
「夜の間に根の国へ。裁きを受けたら、戻れます。」
「はい。」
「ココに居ないなら先に行って、待ってますよ。」
「そうですね。」
この人たちは良い人だ、直ぐに戻れる。根の国へは行った事が無いが、きっと。