4-23 いっそ、このまま
罪人たちが、助けを求めている。でも、誰も助けようとしない。エイは考えていた。
一番、重いのが、火口へドボン。
口に布をかませるのも、頭の後ろで括るのも、両手を後ろで縛るのも。両足を、歩けるくらいに縛って、縄をかけるのも。飛び込ませるのも。
すべて、ここにいる人たちに任せたとしても、足りない。
人は殺さない。それが、釜戸山の決まり。わかっている。でも、それじゃ、おさまらない。怒り、苦しみ、悲しみ。すべて。だから、決めた。
「社の司、これへ。」
「はい。」
「釜戸神へ、お許し願う。」
「はい。この場、お任せください。」
スクッと立ち上がり、社の奥へ。
「エイさま、こちらを。」
酒の入った、小さな甕を手渡した。
「ありがとう。」
禰宜が一礼して、下がった。
「ポコさま、かくれんぼですか。」
頭隠して、尻隠さず。バレバレですよ。
「い、いや。ハハハッ。良い日和で。」
「そう、ですね。」
「エイ、休んでは? 疲れたろう。」
釜戸神の使わしめ、ポコ。裁きを、はじめから見ていた。そして、思った。なんて、なんて酷い。惨すぎる、と。
こうも思った。良く耐えられるな、と。エイからは、強い苦しみと、悲しみが伝わってきた。
「釜戸神へ。お納め下さい。」
酒の入った甕を、差し出すエイ。ポコは黙って、受け取った。
・・・・・・、・・・・・・。・・・・・・、・・・・・・。
エイが戻ると、そこは。
「コホン。」
ササササー。
「仕置を、言い渡す。早稲の村の長、倅ジン、狩り人タツ。死をもって、償わせる。多くの命を奪ったのだ。その命でもって、贖え!」
「い、嫌だ。嫌だぁぁぁぁぁっ! ガハッ。」
「聞け! タツ。」
シゲがタツの頭を掴み、叩きつけた。
「死ねば魂が戻るという。死した後、罪を犯さぬよう、タマと根を取る。切り取る。」
「認めるわけっ、ガッハ。認めるもんかぁぁ。」
早稲の長とジン。叩きつけられても、叫ぶ。
「グガガガガァ。」
口に丸めた布を突っ込まれ、縛られる。もう、騒げない。
「嫌だ。い、嫌だぁぁぁぁ! シゲ、助けてくれ。なあ。」
「助けない。助ける気もない。」
「グッ、ガガガガァ。」
頭を掴まれ、上を向かされる。グイッと丸めた布を突っ込まれ、細長い布があてられる。そのまま、頭の後ろで括られた。
長と倅は、狩り人二人がかりだった。しかしタツには、五人がかり。大暴れするだろうからと、はじめから決まっていた。
「騒ごうが、暴れようが、逃さぬ。早稲の長、ジン、タツ! 聞け、罪人たちよ。
日吉の狩り人、ゴウの子、サブ。草谷の狩り人、ヒデの子、ヒコ。茅野の狩り人、ヨシの子、タツ。三人の子と、同じ痛み、苦しみを与える。」
「グガッ。」
罪人たちが目を見開く。
「獣谷の仕置場にて、仕置を執り行う。なお、仕置人の身を守るため、見届けは、認めぬ。また、・・・・・・、・・・・・・。」
底なしの湖から暴れ川を下ったところに、獣谷がある。
獣谷の仕置場は、釜戸山が噴き出している間にだけ、用いられる。その名の通り、獣だらけの谷。
暴れ川からしか、行けない。




