8-173 有り難や、有り難や
闇の力を使えるように。ってコトは、闇を引き出す何かが起きた。一つしかナイよね。
ミカさんってさ、怒るとコワイんだ。それなりに長い付き合いだから、オレには解る。ミミさんの姿が重なったんだろう。だから、あんなに。
「ぼう、や。」
「ヤダ。悪い人の言う事なんて聞かない。子や女の人に酷い事するのは、とっても、とっても悪い事なんだ。」
見てよ、みんなボロボロ。攫われて、引き摺るように連れてこられて、押し込められたんだ。そうでしょ、クベさん。
「ミカさん、どこに掘る?」
「埋めるんじゃなく、采に放り込むんだよ。」
「でも、遠いんでしょ。」
離れているが、真っ直ぐ北へ投げれば良い。潰れようが砕けようが構わない。
「あの山の向こうに采がある。近くは無いが、闇の力を使えば届くんだよ。」
ムゥの頬に触れ、ミカが優しく教える。
「そっか。じゃぁ、クベさんも?」
「えっ、と。見るかい?」
頭をポリポリしながら、ニョキッ。
「わぁぁ。」
キラキラキラァァ。
ミカは十四、クベは十で死んだ。大石の子は大きいので、見た目は変わらない。けれど、取り込んだ闇の嵩が違う。
闇は憎しみと繋がっている。憎しみは、怒りに寄り添うモノ。
二人は憎しみを抱いた。心にも魂にも、深く刻み込まれている。隠になっても、妖怪になっても消えない。
クベが闇の力を纏うようになったのも、ミカと同じ。思い出したのだ、昔を。幼いクベは抑えられず、叩き起こしてしまった。
だからチョイチョイ、出てしまう。角が。
「始めるか。」
「そうですね。」
腹ペコ妖怪がウジャウジャしている采には、海を越えて来たバケモノも居る。飛んでくる獲物を、残さずパクリと食らうだろう。
ミカもクベも、社付きの国守。殺してはイケナイ。けれど二妖とも、安井に巣くったゲスを生かすツモリは無い。よって迷わず、ポォイポイッ。
「あ。」
悪いのを薪のように、軽軽と。
「怖くないよ、ポイしてるんだ。クベさんもミカさんも国守、新しい妖怪。とっても優しくて、力持ち。」
ニコニコしながら、ムゥ。
新しい妖怪、国守? 助けに来てくれた、のよね。『谷西の隠に頼まれ、助けに来た』って。
「妖怪の国守はね、珍しいんだって。使わしめになるから。」
「使わしめ?」
「神の使いだよ。隠とか妖怪で、社の司や祝と同じ。神に御仕えするんだッ。」
誇らしげに胸を張る。
神に御仕えしながら、人を守るために力を尽くす。なんて御方だ。有り難や、有り難や。