8-172 大きくなったなぁ
采では見た目が全て。美しく生まれれば、美しい布を巻いてもらえる。醜く生まれれば、黒い布が巻かれる。
生まれたときは美しくても、ソレナリに育てば色が変わる。美しさが全て。それが采なんだ、男も女も。
「んなモン知るか。里でも村でも国でも、他に幾らでもある。采だけじゃ無い。考えを押し付けるな、決めつけるな。」
強く巻き締めていた闇が、更にキツクなった。
「オレは、安だぁ。」
「オレは大野ぉ。」
「オレは悦ぅ。」
「オレ、光江ぇ。」
闇でギリギリ縛り上げられ、声の限り叫ぶ。
「知るか。」
ミカにとって、子や女を酷く扱う男は敵。
どうしたって昔を思い出す。前触れもなく、加津に攻め込んだ耶万。港で働く爺や婆を、笑いながら切りつけた。
アチコチから『逃げろ』って、『裏切られた』って。
子は皆、親や兄姉に抱えられ、森へ。残ったのは男。子や女を守るため、負けると分かっていても戦い続けた。
人が焼ける臭い、木が燃える臭い。知らない臭いが風に乗り、届けられる。
泣き出したいホド恐ろしくて、ガタガタ震えた。森で見つけた時、駆け寄って抱きしめたよ。
何よりも怖かったんだ、ミミを失う事が。
「許さない。」
ギリギリ、ミシミシ。
「ギャァァァ!」
耳障りなゲスの叫びが、冬の空に響く。
「ミカさん、落ち着いてください。怯えてます。」
大石から、クベが駆けて来た。
「いいんだよ、殺すんだから。」
「えっ、違います違います。ほら、見て。」
安井に残っていた家を、全てポイした事を思い出したミカは焦る。閉じ込められていた人たちが、ひどく青ざめて見えたから。
「驚かせて申し訳ない。谷西の隠に頼まれ、助けに来た。」
「ミカさんは良い妖怪です。美味しい獣を、いっぱい食べさせてくれました。」
「・・・・・・ムゥ?」
「はい。」
「大きくなったなぁ。」
ムゥの頭を撫でながら、ニコニコ。大石の子はスゴイな。七つ、いや八つでも通るゾ。
ホンノリと心温まるサマを見せられ、ポッカァン。見た目はコワイのに、優しいオジサンにしか見えません。
「ミカさん。コレ、どうしますか。」
クベ、通常運転。
「あぁ。そうだな、捨てるか。」
「ミカさん。捨てるなら、穴を掘らなきゃ。」
「えらいぞ、ムゥ。」
ミカに撫でられ、嬉しそう。
「だ、ずげ、で。」
「じ、に、だぐ、ない。」
・・・・・・ハァ。ナニ言ってんの、助けるワケ無いでしょ。死ぬんだよ、アンタら。一人残らず。