8-171 謂れ無き偏見
谷西の隠たちに見送られ、ミカは安井を目指す。ロロは一足先に、加津へ戻った。
会岐と千砂の国守は元、祝人。大石の国守は子。加津の国守は、生きる力が強い。けれど皆、狩りは出来ても戦えない。
一妖では難しいだろう。
加津神に見聞きした事を御伝えし、大石社へ。クベに話して、安井へ行くよう頼んだ。
「イヤな感じだな。」
囲むなら消せよ。刺さってるぜ、イロイロ。
「オイ、兄チャン。何しに来た。」
ワラワラと群がる、ゴロツキども。
「ヒュゥ、こりゃイイ。身なりは男だが、女だ。それも今じゃ珍しい、加津だぜ。」
色白、整った顔。鬟になんかスルから、首筋が丸見え。そそるねぇ、グフフ。楽しめそうだ。
「・・・・・・え。」
マジか。
「イイコトしようぜ。」
触るな、気持ち悪い。
サワサワ。ん、ケツが硬い。あれぇ? アレあれアレ? ハジメテかな、コワイのかな?
「怖くナイよ。お兄さんたち、美しい女にしかタタナイの。」
「そうそう。イロイロ仕入れたんだけど、酷くてさぁ。」
「だから、溜まってんの。」
「スッキリさせてネ。」
ふざけるな!
「じゃっ、行こうか。」
ブチッ。
攫われた人は穢されて無い。それは良かった間に合った。ヨシ、消そう。コイツら生かしておけば、必ず同じ罪を繰り返す。
突き出すのは止めだ!
怒りがメラメラと燃え上がり、闇の力が目覚めた。牙と角が二本づつ生え、顔には赤い筋。赤黒い炎を纏い、闇を従えている。
「ばばっ、バケモノぉ。」
「テメェらホド、酷かネェよ。」
思い出したのだ。忘れたくても忘れられない、アレやコレやを全て。女を弄ぶ男など、生かす気は無い。女の敵はオレの敵。殺す、嬲り殺す。
「んなコトねぇ。オレは、オレたちは人だ。」
「人なら子を殺さない。女を穢さない嬲らない傷つけない。酷く扱ったり罵ったりしない。だからテメェら、人じゃ無い。バケモンさ。」
外に出ていたゲスを切る気で、ギリギリ縛り上げた。と直ぐ家を持ち上げ、ポイッ。隠れていたゲスを捕らえ、締め上げる。
安井神は御隠れ遊ばし、使わしめも居ない。よって開きっ放し。闇で包んでも障り無い。ゲスは悟る。殺される、助からないと。
「子ってのは、慈しんで育てるモンだ。女ってのは、宝のように扱うモンだ。人でも犬でも何でも、皆そうさ。」
細長い闇がキリキリと、ゲスの体に食い込んだ。目を白黒させながら、口をパクパク。
「人の事を見掛けで決めるな。」
「美しく生まれたヤツに何が分かる! 見た目が醜いとな、心も醜くなるんだよ!」
「フン。言い訳のツモリか、それ。」