8-169 あなた様は
「な、何だ?」
家が無い、殆ど無い。焼け落ちたんだ。雪がチラチラ降り出したのに、このままでは凍えちまう。
気の毒に。皆、疲れ果てゲッソリ。泣き疲れたんだ、きっと。ドロンとした目で遠くを見ている。
戦は終わった、耶万は変わった。なのに、どうして。
空きっ腹を抱えて眠る辛さ、惨めさ。痛いほど解る。夏でも眠れないんだよ、冷たくて。
「加津の国守、ミカだ。耶万社から頼まれ、食べ物を持ってきた。谷西の長と話がしたい。」
あちらコチラから『たべもの』とか、『助かった』とか、いろいろ聞こえる。
奥からフラフラと一人、近づいてきた。眠ってナイのか、目の下が黒い。衣はヨレヨレ、髪も乱れている。
「谷西の村長、イワです。遠く離れた地から、よう御越しくださいました。お休みいただきたいのですが、ご覧の通り。申し訳ありません。」
「いえ、とんでもない。食べ物を大袋に三つ、お持ちしました。どこへ運びましょう。」
焼かれたのは家だけでは無い。倉も畑も焼かれた。大きな村なのに、残った建物は数えるほど。急ぎ掘っ立て小屋が建てられ、身を寄せ合っている。
「では、こちらへ。」
示されたのは、神庫だった。
「あの・・・・・・。」
現代風に表現すると、大袋一つは米俵一俵と同じ。つまり三俵。どうしたって、祠には入らない。
「ハッ、そうですよね。入りませんね。」
お疲れ、なんてモンじゃアリマセン。
「隣に積みましょう。家の中には、入りませんよね。」
掘っ立て小屋を建てるくらいだ、キュウキュウだろう。
「お願いします。」
長が弱弱しく、微笑んだ。
「許せない。」
「采め!」
「安も居たぞ。」
「大野もだ。」
神の御業により、谷西は閉ざされている。死んで隠となり、戻った魂が叫んでいた。
「チリチリも居た。」
「海の人だ。」
光江も加わっていたのか。となると、悦も。人と妖怪の合いの子に、人の味を覚えさせたんだよな。で、食われ食われて、滅びかけている。そう聞いた。
「ミカさん。食べ物を運んでくれて、ありがとう。」
「どういたしまして。で、どこ行く気だい。」
「・・・・・・それは。」
角は生えてないが、牙は生えている。このままでは闇に飲まれてしまう。それはイケナイ、止めなくては。
子を守って殺された親だろう。もし子が、変わり果てた姿を見たら? 見せられない、深く傷つく。
「神が御坐す地は閉ざされた。隠や妖怪は許し無く、出入り出来ない。」
「けれど、あなた様は。」
どう見ても、妖怪ですよね。
「加津社が後見に。望まれて、国守になりました。」