8-165 なんで残ってんだ
「降って、来ぃた。」
調子をつけて、舟を漕ぐヌエ。
「クゥ。」 ソウデスネ。
カツの飼い犬カナ、舳でオスマシ。
カツは早稲を通り過ぎ、浅木へ。
釜戸社から浅木社にシッカリ伝えらえていたので、スンナリ入れた。大野のガガを台ごと引き渡し、課せられた務めを果たす。
早稲に戻って直ぐ、気付く。物物しい出立ちの男。女が少ない、ユユも居ない。長の家へ飛び込み、ヒトを締め上げた。『戦でもオッ始めるのか』と。
違った。風見から『沼田の辺りを調べてほしい』と頼まれ、見つける。行き倒れた谷西の人を。
生き残りは幼子一人。頬を叩いて水を飲ませ、団子を与える。もの凄い勢いで平らげ、気を失った。
起きた幼子に、何があったのか尋ねる。するとポツリポツリ。刈り入れが終わり、倉に食べ物を納めて直ぐだった。村が、采の生き残りに襲われたのは。
父は皆を逃がすため戦い、死んだ。兄は追っ手から守るために戦い、死んだ。母は力尽き、死んだ。一人残されたナミも行き倒れた。
他にも居たが、逸れたと。
「うぅね、滅べって、滅んだか。」
「ワン。」 ハイッ。
尾を振りながら、合いの手を入れる。
信じられないよね、食べ物を奪うなんて。
困ってるなら『分けて』って、頼めば良いのに。社の司が言ってたよ。谷西の人、いっぱい死んだって。
あの子、言の葉は出てたけど・・・・・・。
一人ぼっちで生きてかなきゃイケナイ。好いた男と契った姉さんだって、どうなったか分からない。もし死んでたら。
カツさんが『春まで預かる』って言った。早稲の人に任せるより、良いと思う。何となくネ。そんな気がするんだ。
「加津に変わって良かったよ。」
舟を漕ぎながら、浅木の釣頭が呟いた。
「悦だの安だの光江だの、采だの大野だの。悪い話しか聞かねぇ。早稲が良く思えるよ。」
仰る通り。
浅木の社の司から聞いて、驚いた。
実山では無く、谷西を狙ったのは分かる。実山には勝てないから。けど、襲うか?
森や他所へ逃げた人の多くが、獣に襲われて死んだ。追っ手から逃げ続け、力尽きた人も。
早稲に救われた幼子、生きてほしい。
春まで残るよう伝えたら、黙って頷いた。だから伝えた。『父と兄の骸を見つけ、葬った』と。社を通した言伝だ、違い無い。
母の骸は、早稲の女たちによって葬られた。
全て隠さず、子に。そしたら、声を殺して泣いたって。六つだ、まだ六つ。六つの子に耐えられるワケが無い。
「許せねぇ。」
祝の話では、海を渡って来たバケモノを光江、悦、大野、安、采と進ませ、悪しいのを食らわせた。加えて采には、悪しき妖怪を向かわせたと。
フッ。
奪った食べ物は、真中の七国に送ったらしい。けど甘いゼ。海神の御業により、流海川の近くに集められた。
岸多が残らず、加津へ運んだってサ。
「にしても気になる。」
谷西は村だが、大きい。狩り人だって居る。そんな村を襲って、食べ物を奪うだ? 采の生き残りダケで、そんな事。
・・・・・・南に、滅んだ国があったな。悪いのが巣くってるって。
そもそも、なんで残ってんだ?