4-22 鉄槌を下す
「そうだ、女は黙って、仕えてろ。」
タツが、偉そうに言った。
「な、何を言い出す。タツ。」
「母さんは、オレを残した。一人にしたんだ。許せるか! 父さんもだ。オレは一人になったんだ。だから、オレは悪くない。みんな、父さんと母さんのせいだ。」
大人が、言うことでは、ない。困った。
「禰宜よ。」
小さな声で。
「はい。」
小さな声で。
「タツは、大人か。」
「はい。」
どうみても、子ではありません。
「大人が、言うことなのか。」
違うよね。
「いいえ。」
やっぱり、違うんだ。
「ありがとう。」
「はい。」
ロクが下がった。
「祝、よろしいでしょうか。」
難しい顔をして、シゲが言った。
「良い。」
「タツ。お前の父も、母も、良い人だった。」
「どこが! オレを一人にしたんだ。だから、オレはこうなった。オレは悪くない。」
「まだ、そんなことを。」
「なっ、何を! 笑うな。」
「笑ってないだろう。いいか、タツ。お前は、悪いことをした。一度ではない。何度も、何度も。許されないことをした。わかるか。」
「オレは悪くない。」
「悪い。」
「な、何を言う! オレは。」
「悪いことをした。許されないことをした。認めろ。」
「悪くない。従わなかったんだ。だから、吊るした。だから、殴った。だから、食わせた。」
ドンッ! 拳で叩く音がした。ヒデ、ゴウ、ヨシの三人の目から、メラメラと怒りの炎が。
「オレは、悪くない! 悪くないんだぁ。」
立ち上がろうとした。犬が迷わず、ガブリ。
「ギャァ、痛い。痛い。やめてくれぇぇ。」
シゲがタツを押さえつけ、座らせた。すると、犬がスッと離れ、犬飼いの元へ。
「タツ、良く聞け。お前は今、裁かれている。」
「オレは、悪くない。」
「言ったよな。罪は罪。償えって。」
「オレ、悪く、ない。オレ、オカシイ、んだ。だから、だから、悪くない! 悪くないんだ。」
「何度も同じこと、言わせるなよ。村でも言った。確かに、お前はオカシイ。でもな、だからって、何をしても許されるわけじゃない。」
「オレは。」
「聞け! タツ。ここは釜戸社。お前は今、裁かれている。騒ぐな、喚くな、暴れるな! オカシイからって、何をしても許されると思うな。」
「オレ、悪く、ない。頭の中で、響くんだ。それで、だから。オレは、オレは悪くない。」
「頭の中で、響く? 何が。言え。ヒコは、何て言ったんだ? オレの子は七つだ。賢い子でな。生きようとしたはずだ。それなのに、従わなかったから。だから吊るしただと? ふざけるな。返せ、返せよ、ヒコを! 返せ。」
「何が響くって? サブの声が聞こえるのか。何て? 何だって。言え! 言ってみろ。言え! サブは、サブはな。あの子は五つ。たった五つの子に、何をした! 言え、言ってみろ。」
「悪くないだと? オレの子を、タツを奪っておいて。あの子は、たった六つだ! お前が殺した。オレの子を、タツを! 従わなかった? それで、それで。あんな、あんな。」
誰も、止めなかった。犬が怯え、犬飼いを見ている。
「お、オレ、は、悪く、ない。そうだ、悪くない。悪くない! 悪くない。グハッ。やめっ、グボッ、ガッ、や、やめっ、ゲボッ。たっ、助け、ギャァ。」
子を奪われた父たちが、何も言わず。ただ、ただ、拳を振るう。泣きながら。
こんなことをしても、死んだ子は、生き返らない。戻らない。帰ってこない。わかっている! それでも、止められなかった。




