8-156 命は一つしかナイのに
「アッ、アッ、アァァァ。」
何だ何だよ、何なんだ。食われてる。熊に、生きたまま。わっ、見るな。見るな!
・・・・・・次、オレじゃ。死ぬのか、食い殺されるのか。スミで腹、イッパイだろう? そうだよな、そうだと言って。頼む、頼むから。
「ぐるな、ぐるなよぉ。」
ん、この感じ。嫌だイヤだ、イヤダァァ。
なんで埋めた。首だけ残して、なぜ埋めた。あ、あれか。目の前で食われるスミを見て、言い残しとか隠し事とか、言わせる気か。
言ったよ、残さず全て。だから頼む、助けてくれ。オレ死にたくない、まだ死にたくないんだ。やりたい事とか、心残りとかイロイロあんだよ。
えっ。えっ、えっ、えぇぇ。掘るなワンコ、ザクザク掘るな。掘るなって!
「やめろォォォォォ。」
ガブッ、ブチッ。ガブッ、ブチッ。ガブガブ。
「ギャァァァァァ。」
・・・・・・行った。助かったんだ、オレ。良かった。って、え。く、くくっ、熊ぁ!
この辺りの獣は知っている。動けないようにして残されたのは、生きていても食らって良いと。
大人しく食われれば、黙黙と。騒いだり暴れればアゲアゲ。弥が上にも、興奮は高まった。
「ア゛ァァァァァァ。」
掘り返されたのは肩の辺りまで。ワンコはサササ、熊はザザザ。アッと言う間に、胸まで顕に。
肩に噛みつき、グイッと引き抜いた。そのままポォン。ドタッと土に叩きつけられたトモは、逃げようとした。が、逃げられない。
腕は後ろ手に、足もシッカリ縛られビクともシナイ。這って逃げる事も、芋虫のように体を動かす事も出来ない。このままでは!
「だずげでぇぇ。」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。いろいろ何もかも、ごめんなさい。オレが悪かった。攫いました、アチコチから。
穢しました、嬲りました、甚振りました。弄びました、売っ払いました。ごめんなさい。
殺しました、死なせました、見捨てました。悪いのはオレです。攫われた人は何も悪くありません。オレが悪いんです、人で無しです。
人なら考えもシナイような事、イッパイしました。思ってもシナイような事、イッパイしました。イケナイと解っていても、止められませんでした。
オレは殺されて当たり前、生きてちゃイケナイんです。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。生まれてきて、ごめんなさい。
オレさえ居なければ、死なずに済んだ人、イッパイいます。助かった命も、助けられた命も、救われた命も。
命は一つしかナイのに、奪いました。ケラケラ笑いながら奪いました、楽しみました。アレ。なんでオレ、生まれてきたんだろう。ナンデ死ななかったんだろう。
オカシイって解ってました。なのに死のうと、しませんでした。
オカシイって思った時、死んでれば。死んでれば、オレが死んでれば死ななかった人、いっぱい居たのに。ナンデ、なんでオレ。
・・・・・・なんで?




