8-154 死んで償え
「逃げたんだ、認めたと見做す。」
中主の里長が凄む。
里の南西にある仕置場。罪を犯した者を責め立て、洗い浚い打ちまけさせ、キツイ罰を与える。
『罪を犯した事より、生まれた事を悔いる』ナンテ言われる、恐ろしい場所。
安のトモは知らない。隠れ里の裁きが、どれほどのモノか。スミは知っている。隠れ里の裁きが、どのようなモノか。
「謝って許されるとは思いません。でも、許してください。オレ、死にたくなくて。それで。」
泣きながら平伏す。
「解っているな、スミ。」
・・・・・・。
「許されない事をした。」
「ウッ、ごめんなさい。ごめんなさい、許して。」
冷たい目、目、目。
誰も何も言わない。ただ、ジッと見つめている。里を売った裏切り者、敵を引き入れた裏切り者。裏切り者は罰を受け、死ぬ。それが里の掟。
「スミ、死んで償え。」
「父さん!」
・・・・・・助けて、くれないの? そんな目で見ないで。死にたくない。
「コガは奴婢として、真中の七国に送られたんだ。死んだか、死にかけてるか。」
「ウチのタギも、同じだろう。」
「生き残ったのがスミだったダケ。コガが先に裏切っていたら、スミが送られていた。」
「そうだな。タギが先に裏切っていたら、スミが奴婢に。」
そうだ。オレが先に裏切ったから、生き残った。『射ろ』と言われても『刺せ』と言われても、『殺せ』と言われても迷わなかった。犬だから。
今なら分かる。違う、試された。
飼い犬を殺せるか、戦えるか奪えるか。生まれた時から共に過ごしたコガもタギも、オレが殺したようなモノ。
そりゃ憎むよな。
おじさん、ごめん。謝って許される事じゃ無いけど、ごめんなさい。死んで償います。オレが死んでも戻りません。オレは、殺される事をしました。
「ハッ、それでも親か。親なら子を助けろよ。ヒデェ里だな、中主は。」
「黙れ人攫い。安のは皆、こんなか。え、どうなんだトモ。答えろ。」
後ろ手に縛られた腕を掴まれ、崖っぷちに立たされた。
いきなり肩を押され、立ったまま崖下を臨む。足元が崩れ、ゴロゴロと落ちる石を見て、やっと悟る。従わなければ殺されると。
腕を縛った縄が伸ばされ、木に括り付けられている。
ピンと張ったソレが切れれば、真っ逆さま。甘かった。ガガを見た時、思ったんだ。逃げられないように縛り付けられて、どこか遠くで裁かれると。
違う、そうじゃない。オレはココで裁かれる。いや、これが裁きなんだ。言わなきゃ、全て隠さず伝えないと、オレは!
「安、悦、光江、大野、采。どれも、滅ぼされるダケのコトは有る。ヒトデナシしか居ないのか。」
悪行、蛮行にゾッとした長が、吐き捨てるように言った。
「言います。だから助けて、殺さないで。」