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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
釜戸社編
67/1627

4-21 は?

「祝。申し上げたく。」


「良い。」


「シンと申します。父は前の、木下の長の子、シン。母はナナ。そこにいる早稲の長に、攫われました。


秋祭りの時、早稲の長を止めようとして、木下の長は、殴り殺されました。父は、母を守ろうとして、刺し殺されました。しかも、母の目の前で。


私を身籠っていた母は、動けなくなりました。心を病んでしまったのです。それでも胎の子を、私を守って、産みました。私の名は、父の名です。父から継いだ!


母は、私を育てるために、言いなりになりました。早稲の、長の子を産んだのです。その一人が、そこにいるジン。」


涙をためて、早稲の長と、ジンを睨みつけた。


「父に向かって、何だ、その目は。」


ブチンと、堪忍袋の緒が切れた。


「母さんが、首を吊って死んでいるのを、はじめに見つけたのが婆さんだ。叫び声が聞こえて、駆け付けた時には、息が荒かった。胸を抑えながら、泣き叫んでたよ。何度も。『ごめんなさい。ごめんなさい』って。」


「オマエ! 父に向って。跡継ぎだろう。」


「父だ? ってか、継ぐわけないだろう。誰か、他のヤツが継ぐんじゃないか? オレは知らない。


そもそも、オレは長、お前の子じゃない。木下のシンの子だ。だから、外との繋ぎをさせた。違うか。」


「ち、違う。わ、早稲は、お、お前が守れ。残せ。」


「は? 早稲の村は、もう終わりだ。三鶴と玉置が攻めてくる。」


「三鶴? 玉置? 他所のヤツらがいるだろう。」


は?


「連れ戻せ。」


「死んだよ。みんな。三鶴に行ってた人は、三鶴の長と、その倅を。玉置に行ってた人は、玉置の長と、その倅を。それぞれ殺して、それから・・・・・・。


互いの胸に刃を突き刺して、抱き合うように死んでた。」


早稲の罪人たちが、ポカンとした。




「村の外れに暮らす人たちは、助けないってさ。そりゃそうさ。セツさんが死んだんだ。誰も従わない。オレも同じだ。母さんが死んだんだ。早稲から出る。」


「出る、だと? 許さん! 守れ。」


「断る。滅びりゃいいんだ、あんな村。」


「シン、ここは社、祝の前だ。控えろ。」


シゲが静かに言った。


「はい。」


「続ける。よいな。」


エイが静かに、念を押す。


「はい。」


皆が首を垂れた。もちろん、罪人の頭を抑えたのは、犬飼いたち。




「早稲の村長よ。亡き母フウの言の葉、何を思う。」


「何を? 何とも思わん。」


「老いた母に、何を言わせた。」


「は? 何を今さら。覚えとらん。」


は? とは何だ! それに、忘れただと?


「『あの人たちは人なの。お前と同じ、人なのよ』そう、何度も言っていた。シゲ、違いないか。」


「はい。私が聞いたのではなく、フウの世話をしていたコノから、そう聞きました。」


「『産んでしまって、ごめんなさい』そう言った。違いないか。」


「はい。違い、ありません。」


「早稲の長よ。母フウは、諭した。人を思いやれと。その思いに応えようとは? 詫びようとは。」


「詫びる、だと? ふざけるな。」


「響かぬ、か。」


「そもそも、ワシのすることに、口出しなど。」


「口出しなど。」


「許さん。女は黙って、仕えてろ。」


「仕えろ? かしずけ、と言うのか。」


「そうだ。女など、それくらいのモノでしかない。」


「その女から生まれたのだ! 早稲の長よ。」


「だから、何だ。」


「命がけで産んでくれた母に、仕えろ? かしずけ。」




エイは、腹が立った。煮えくり返るほど! 母は、エイを産んですぐ、旅立った。命と引き換えに産んでくれた。だから、こうして生きている。


父さんは、慈しんでくれる。守ってくれる。エイの母さんは、一人だけだよ。そう言って、後添えを迎えない。


おいしい物を食べて、ぐっすり眠って、幸せに暮らしている。すべて、母さんが産んでくれたから。父さんが育ててくれるから。


この罪人たちは、気の毒な人なのかもしれない。だからって、許されないけれど。


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