8-153 ある意味、最強
「スミは捨てる。あの男、生きたまま捕まえろ。」
犬を嗾けてから、中主の里長が言った。
「ハッ。」
狩頭が目配せ。狩り人が五つに分かれ、川を目指して走る。舟は押さえた。ひっくり返して埋めたんだ、見つけたとしても、掘り返すのは難しい。
「ワン。」 ヤツダ。
新鮮なガガのに耐えきれず、舳でグッタリしていたカナが立ち上がり、吠えた。
「ん・・・・・・。」
何だ? 子を抱えてジャブジャブと。
アレは確か、中主の。手を振るなら笑うよな。あの顔ってコトはアイツ、里の子を攫ったのか。
「オイ、降りろ。」
スミを舟に放り込み、トモが凄む。
「ヤなコッタ。」
涼しい顔で、カツ。
「ワン、ワワン。」 コイツ、アクタレデス。
オレを的にして矢を。覚えてる、忘れない。すっごく痛かった。噛みついて・・・・・・。
バッシャァン。
新鮮なガガの大と小が、トモの顔を直撃。勢いよく、何の前触れもなく。
「フガッ。」
ゴフッ、ペッペ。ペッペッペ。オエェェ。
舟から手を放したので、スイィィ。ポカンとするスミ、慌てるトモ。
「オォイ。アイツ、頼むわ。」
中主の狩頭を見つけたカツが、手を振ってニコリ。
「助かった、下で。」
チラッと見ると、カナが子を追い詰めていた。
「ん、テメェ。犬を的に射ってた悪タレじゃねぇか。他の二人は、どうした。」
「知るかよ。」
「あ゛。」
「ワカリマセン。」
「カナ、見張っとけ。逃げようとしたら噛め。」
「ワン!」 ヨロコンデ!
少し下った所で舟を寄せた。暫くすると中主の里長、ツクが駆けて来る。
「長、久しぶり。」
「カツさん・・・・・・、その。」
桶はカラだが残る。桶も臭うが、ガガも。何せ垂れ流し、舟の上なので洗えない。尻の辺りからプゥンと、鼻を摘まみたくなるような臭いが。
「釜戸の裁きでな、タマと根を切り落としたんだ。他にもイロイロしたかったが、浅木に生かして送らなきゃってね。」
「そうか。ところでスミ、里を裏切ればドウなるか。覚えているな。」
「・・・・・・はい。」
「じゃぁ任せるよ。オレはコレ、届けなきゃ。」
台に縛られたまま、動けないガガを指す。
「分かった。ありがとう、助かった。」
「良いってコトよ。」