8-147 一目で
「たっ、タイヘンです。」
「どうした土、そんなに慌てて。」
大貝山の統べる地で、人と妖怪の合いの子が生まれている。
多くは生まれる前に死ぬか、胎を食い破って出て直ぐ、殺されるか。譬え這い出ても、大きな頭を支えられない。小さな体では生きられない。
神の御坐す地では国守など、戦える人が社の者と力を合わせ、事に当たっている。
会岐、大石、加津、千砂で生まれた六妖のうち、二妖は死んだ。母を食らい、殺された。残る四妖は生まれて直ぐ、母から引き離せた。
人を襲ったり食らわぬよう、国守がシッカリ育てている。会岐のフタも千砂のモトも、元は祝人。二妖とも、闇の力を持っている。望まれて国守になった。
加津のミカと大石のクベは、耶万のタヤに会っている。
今のトコロ闇の力は無いようだが、タヤの事だ。心の底から願った時に出るよう、隠しているのだろう。
なんとなく感じるのだ。耶万から溢れた闇とは違う、優しい闇を。
ミカは加津を、クベは大石を守ると決め、国守になった。その思いはシッカリ届き、とても慕われている。闇に溺れたり飲まれる事は、きっと無い。
目も当てられないのは、神が御隠れ遊ばした地。アチコチで暴れ、多くの命を奪った合いの子たち。
「土よ。三柱、集うと思うか。」
「届け出の無い子を、清めると。」
「大祓しか・・・・・・なかろう。」
人と妖怪の合いの子を集め、祓うなら、使わしめでも宜しいかと。大貝山に集めましょう。
闇に強い隠の、そうですね。耶万社のマノさま、殺社の海布さまに、お頼みしましょう。
私も加わり、囲い祓います。御清めくださいませ。
「通してあるのか。」
「はい。」
使わしめの集まりで話し合い、決めた。人と妖怪の合いの子を祓うため、力を合わそうと。
どうすれば人を守れる、良い妖怪になるか。どう扱えば満たされるのか。母を食らわず引き離すには、どうすれば良いのか。
他にもイロイロ話し合い、分かってきた。
胎の中に入っている時から、怖がらず話しかける。生まれたら直ぐ掴んで、母から引き離す。頭を掴んで、死にかけの獣を入れた大穴に、迷わず投げ込む。
死んだ獣には見向きもしない。だから必ず弱っているか、死にかけの獣を。穴は妖怪でなければ出られないほど、深く深く掘る。大きさは、大熊が入るくらい。
ゴキュゴキュ聞こえたら覗き込み、クルクル巻いて一呑みするまで見つめる。
腹をポンポンして眠れば、それで良い。足りないようなら急いで狩って、獣を放り込む。
満たされるまで食べて、グッスリ眠る。それを三度で、三つくらいに育つ。人を襲ったり食べようとせず、話が出来る子に。
「危ない妖怪の子は、一目で判ります。何もかもが、ミイたちと違いますので。」
「ミイ?」
会岐のミイは、チョッピリ食いしん坊。千砂のヨヨは明るく、勢いが良い。加津のイイは驚くほど賢く、シッカリしている。大石のムゥは生まれたばかりだが、聞き分けが良い。
四妖とも、とっても良い子です。